ビタースウィートメモリー
「由美、ちょっと付き合ってくれ」
由美と呼ばれた女性の手を引っ張り、大地は会社を出た。
その後ろを歩きながら、悠莉はどうしたものかと思案する。
あまり論理的に話をすると感情を逆撫でするかもしれない。
会社から少し離れた場所にあるカフェに入り、悠莉は自分の隣に座った大地と、真正面に座る由美を見比べた。
「改めまして、小野寺の友人の青木です。失礼ですが、お名前を伺っても?」
友人という言葉を強調して挨拶をすると、彼女は意外そうに目を見開いた。
「付き合ってないんですか?」
「恋人としてという意味でなら、違います」
今後もそうかはわならないが、と心の中で付け足す。
即答した悠莉に安堵のため息をついた彼女は、浅く頭を下げた。
「先ほどは失礼いたしました……長井由美と申します。大地さんには別れて欲しいと言われましたが、彼の子供を妊娠してしまい、そうもいかなくなったので会社まで説得に参りました」
「一度は別れることに同意したのに?」
ここにきてようやく、大地が口を開いた。
恐らく彼女が、大地が三股をかけた挙げ句に別れようとしている女性の最後の一人だろう。
もし当たっていたら、彼女の振りをする約束を違えることになるが、この場合は友人と言っておいて正解だったかもしれない。
由美は、先ほど会社のエントランスホールにいた時よりも落ち着いているように見えた。
「妊娠に気づいたの昨日だったから」
少しつついてみるか。
「妊娠したってことは生でヤったんですか?それともゴムに穴でも空いていたとか?」
「なっ……」
悠莉の明け透けな物言いに、由美の頬にさっと朱が差した。
「いや、それはない。俺はどれだけ泥酔してもゴムなしでしたことはない。万が一穴が空いていたりなんかしたら、仕事を休んででも相手の女を産婦人科まで連れていってアフターピルを飲ませる」
自信を持って断言する大地の言葉を信用するなら、由美の言葉は嘘になる。
「由美、俺達は一回も生でしていないし、ゴムにも不備はなかった。なのに、なんで俺の子供を妊娠したって断言出来るんだ?」
大地の疑問はもっともであった。
由美は恥ずかしそうに、しかし具体的に答えた。