ビタースウィートメモリー
「初めて大地さんとしてから生理が来ないの。私、今まで生理不順になったことなんかないのに。最近は胸も張るし、昨日から胃がムカムカして吐きっぱなしで……」
それを聞いた大地の顔がだんだん青ざめていった。
だめ押しのごとく、もう一言、由美が追加した。
「二ヶ月くらい、ちょっとずつウエストも膨らみ続けているの。ここ二年くらい誰とも付き合ってなかったから、大地さん以外あり得ないのよ」
もう、どこからどう聞いても妊娠しているようにしか思えない。
一人になりたい。
強くそう感じた悠莉だが、大地が出す答えは何か気になって、隣に座る彼を見た。
「……明日の夜に一緒に病院に行こう。もし本当に妊娠していたら、その時また話をしよう」
「わかった。病院、予約取っておくから」
カフェの出口まで由美を送り、戻ってきた大地は、途方に暮れたような顔をしていた。
その顔を見ているうちに、悠莉の中で何かがプチッと音を立てて切れた。
「あれが同時進行で付き合ってた元カノその3か」
無表情で抑揚のない悠莉の声に、大地がビクッと肩を震わせた。
「……そうです。土曜日の昼に電話で別れたいって伝えた時には、ひと悶着あったけどとりあえずは同意したはずなのに……」
「あの人、ピルは飲んでるのか?避妊リングは?」
「いいや……」
「ゴムだけだとずれたり、精液が付着した手で着けたってだけで妊娠する可能性もなくはない。避妊リングも入れずピルも飲んでいないなら、確率は低いがあり得ない話しではない」
怒りを抑えたように淡々と話す悠莉に、大地は項垂れた。
今までどれだけ大地の女性関係が派手でも、まったく気にならなかった。
基本的には呆れ、時には面白がってすらいたのに、もうそんな感情にはなれないだろう。
大地にぶつけたくなるこの怒りが何か、悠莉はわかっていた。
嫉妬だ。
これまでの人生で無縁だったその感情は、悠莉を蝕み、冷静さを奪っていく。
「あたしもいつかはああなるのか?本気だと思って付き合って、何回かセックスしたら終わりが来るのか?」
「もう二度と軽はずみに誰かを引っかけたりしない!約束する!青木のことは誰よりも大事にするから、だから俺を信じてくれ」
ああ、まただ。
この状況になっても、大地は決して「好きだ」と言わない。