ビタースウィートメモリー
やはり来たか。
悠莉の脳内に真っ先に浮かんだのは、その一言だった。
不思議と緊張はしなかった。
いつもより少しだけ早い鼓動を諌めようと、かえって理性が強くなる。
「本気で言っているのか?」
一番欲しかったはずのものは、いざ与えられると偽物ではないかと疑ってしまう。
そんな悠莉の胸中を十二分に理解しているからか、大地はいたって真剣に頷いた。
「本気だ。誤解しないように付け足すと、異性として好きだ。青木と付き合えるなら、多分浮気はしない」
「多分かよ。そこは断言しろ」
「浮気しないことを前提に告白したのは過去に一回だけだから、自分でも自分が信用出来ない」
「スタイル抜群の美女が迫ってきたら浮気する?」
「するかもしれないな。一回くらいは。それでも、青木以外が本命になることは絶対ないって言い切れる」
あまりの暴論に、悠莉は呆れた。
しかし、大地は真面目な顔で正座までしている。
「知っての通り、俺は過去に何人もの女をヤリ捨てしてきた。明日刺されて死んでもおかしくない、ろくでなしだ。そんな俺が、絶対に浮気はしないなんて軽々しく言えない。だから、努力する。青木を好きな気持ちを、大事にしたい気持ちを、ずっと忘れないでいられるように」
本来なら耳障りの良い言葉で飾らなければいけないところまで、大地は剥き出しのままぶつけてきた。
あまりに直球すぎて、悠莉の思考はなかなか動かなかった。
今言われたことを何度も反芻し、ようやく理解が追い付くと、呆れると同時に清々しさも感じる。
「もうちょっと他に言い様なかったのかよ」
「ない。虚飾まみれのクソ甘い告白なんざ、青木は求めていないだろ?これからの俺が唯一約束出来るのは、嘘をつかないってことだけだ」
確かに嘘くさい愛の告白よりも、多少汚くても本心が伝わるような言葉のほうが嬉しい。
大地の気持ちはよくわかった。
次は自分の番である。
返事をしようと口を開くが、いつまで経っても悠莉は何も言わなかった。
何も出てこないのだ。
自分がどうしたいのか、わからない。
頭に靄がかかったように、明確にこうしたいと言えない。
大地の告白からずっとその状態だったことに今気づき、悠莉は愕然とした。