ビタースウィートメモリー
「小野寺……あたしは……」
あたしはどうしたいんだ?
自分に問いかけても、答えが出ない。
つい五分前まで悠莉は、自分は小野寺大地を異性として好きなのだと思っていた。
そのため、告白されたら受け入れ、付き合い始めるつもりだった。
しかし今、告白されてもすぐに返事が出来ない自分がいる。
「……ごめん、ちょっと考えさせて」
時間と共に困惑が膨らみ、悠莉は深く考えずにそう言ってからハッとした。
大地は表情を変えずにわかったと頷くが、内心どう思っているかはわからない。
部屋には再び静寂が訪れる。
しかし先ほどとは違い、どこか気まずい静けさであった。
そして沈黙を破ったのは、またもや大地であった。
「こっちこそ、いきなりごめん。答えは急がず、ゆっくり考えてくれ」
大地の声はどこまでも優しかった。
彼が部屋を出ていき、玄関のドアが閉まる音が聞こえるまで、悠莉はただその場に凍りついていた。
大地が帰った後の夜は長かった。
告白を求めていたはずなのに、あれほど望んでいた「好き」という一言をもらったのに、なぜ信用出来ないのか。
そもそも、本当に自分は大地が好きなのか。
すべてに確信が持てない。
自信がない。
10年前、佐々木と別れた日の事が頭をよぎる。
冷たいと罵られ彼を振ったあの日から、悠莉はどんな男のアプローチも受け付けなかった。
大地の気持ちを、10年間本気で恋をしなかったことを理由に疑ったが、それは最大のブーメランとして返ってきた。
悠莉もまた、長年恋愛から逃げ続けてきたのだ。
そんな自分が、なぜ大地が好きだと断言出来るのか。
友達と思っていた男に異性として扱われたから、今までの男達と違うと思ったのかもしれない。
あるいは、友情から派生したちょっとした独占欲を恋と勘違いしたのか。
様々な理由を考えては、そのたびに正解から遠ざかっている気がして、悠莉は考えるのを放棄した。
わからないものはわからないのだ。
いつも通りの日々を過ごしているうちに、きっと答えは出るだろう。