ビタースウィートメモリー
金曜日はいつも以上に慎重に仕事に励んだ。
確認に割く時間が増えたため、仕事のスピードはだいぶ落ちたが、下手にミスをするよりはよほど良い。
土曜日の女子会でちょっと高めのイタリアンで綺麗に盛られたパスタをつつきながら、夕方に行くビアガーデンに思いを馳せていたところまでは良かった。
高橋から電話がかかってきて、取引先に行くのに足がないから今から茨城まで運転しろと言われた瞬間、悠莉はスマホの電源を切るか真剣に悩んだ。
今日運転するはずだった営業部の後輩は熱を出して倒れたらしく、車の免許を持っていて休日の予定がなさそうだからという理由で、悠莉に声がかかったらしい。
確かに免許は持っているしなんなら茨城は出身地だから運転手をする分にはやぶさかではないが、タイミングが悪かった。
せっかく集まってくれた一人一人に頭を下げて、不機嫌さを全開にして、悠莉はレンタカーを借りて高橋を迎えに行った。
舌打ちこそしないものの無表情で怒りをあらわにする悠莉に、高橋はアマゾン商品券を差し出した。
これで酒でも買えと言われた瞬間、悠莉は機嫌が悪かったことを忘れて、喜んで茨城まで車を飛ばした。
そして夜も22時を過ぎてから帰宅し、翌日着ていく服をどうするか決めかねて、クローゼットをひっくり返して悩み、日付が変わってようやく床についた。
日曜日、7時にセットした目覚ましが高らかに鳴り響くなり、悠莉は跳ね起きた。
シャワーを浴びて念入りに髪をブローし、ギリギリまで迷った挙げ句に、白いパンツにグレーのチェックのブラウスを選ぶ。
色味は地味だが、ウエストが絞られているのと、袖についたフリルが女性らしいデザインだ。
普段なら休日はすっぴんだが、今日は特別にしっかり化粧をした。
服装が地味な分化粧は華やかにしようと、アイラインはネイビーにする。
コーラルピンクのルージュを引いて、黒いハンドバッグを肩にかけた。
姿見に映った自分は年相応の、それでいて洗練された格好だ。
準備時間に90分使い、悠莉は意気揚々と自宅を出た。