ビタースウィートメモリー
和やかな雰囲気が一転し、悠莉はあからさまに高橋を警戒した。
これはあれか、何か奢れというパターンか。
先輩に奢ることに抵抗はないが、フードファイターもびっくりな大食い漢である高橋は例外である。
食べ放題のない店に連れていけば最後、だいたい6万円から8万円食事代に消えるのだ。
「明日の夜にだな」
ディナーか、ランチより高くつく、と絶望した悠莉だが、続きの言葉に首を傾げた。
「ホームパーティーがあるから、予定がなければお前も来い」
「ホームパーティー……ですか?」
「そして総務の白石さんも誘ってくれ」
ああ、なるほど。
美咲にアプローチしたいのか。
合コンではあからさまだから、ホームパーティーというもっと砕けていて下心が隠れる場で接近したいという算段だろう。
「代わりに、お前みたいな女子力の低いやつでも受け入れてくれそうな器の大きいイケメン達を用意したぞ」
「セクハラで訴えますよ」
欲しいか欲しくないかで言えば彼氏は欲しいが、余計なお世話である。
そして、この先輩がそのイケメン達にどんな前情報を出したのか、非常に気になる。
「会費は?」
「ただ。もちろん酒もある」
「美咲にLINEします」
イケメンより酒につられた悠莉は、即効で美咲にLINEを打っていた。
「お前単純だな……」
「買収した人が何を言ってるんですか。また後で美咲の返事送りますね!」
会社から新宿までは電車でだいたい20分だが、遅延情報が出ていたのだ。
早く着く分にはまったく構わないのだから、悠莉は予定を早めて会社を出た。