ビタースウィートメモリー
吉田が言う音ゲーも兼ねたジェットコースターを楽しんだ後は、時間を忘れて次々に並んだ。
休日ということもあり人は多いが、舞浜にあるネズミのテーマパークに比べればたいしたことはない。
絶叫系を一通り乗ったら、箸休めに他の場所を巡っていく。
途中で人形をコンセプトにしたお化け屋敷を見かけたが、そこは頑なに吉田が嫌がった。
その反応が面白くて無理やり連れていったら、なんと自分たち二人だけで通されてしまった。
ほんのりと線香の匂いがする暗闇で芸の細かさに感心していたが、余裕ぶっていた悠莉も最後は吉田と共に恐怖の悲鳴をあげてしまった。
14時頃にテーマパークを出て、悠莉は伸びをして骨を鳴らした。
「楽しかったです!でもあの人形屋敷はいただけませんね。なんかリアルだし」
「だから嫌だと言ったのに。もう二度と、金輪際、あの手のものには行きません」
まだ少し顔を青くしたまま、吉田はきつく言った。
自分も最後にはしっかり怖がったことを忘れて、悠莉はニヤニヤと吉田の顔を凝視した。
「……いつまで笑っているんですか。さあ、遅くなってしまいましたがお昼ご飯にしましょう」
「どこか予約していたりします?」
「いいえ。今から探します。何が食べたいですか?」
「肉が食べたいです」
「お肉なら、美味しいとこ知ってますよ」
悠莉のリクエストに応えて吉田が連れていったのは、お台場海浜公園駅から程近いカジュアルダイニングだった。
ベイブリッジと東京タワーがよく見える席に通され、なんでも奢るという吉田の言葉に遠慮せず、悠莉は特大のステーキを注文した。
450グラムの塊肉を豪快に、しかし所作は美しく平らげていく悠莉を、吉田は呆気にとられて見ていた。
「アメリカンサイズな胃袋ですね」
「ええ、毎月エンゲル係数がヤバいです」
神妙に頷いた悠莉を楽しげに見ながら、吉田もカツカレーに手をつけた。
こちらはやや少なめの量である。
悠莉からすれば鳥の餌程度の量だが、吉田は自他共に認める少食だった。
一般的な女性と同じかそれより少ないくらいの食事量で、よく191cmの大男が生まれたものだ。
彼はガリガリというわけではなく、いわゆる細マッチョくらいの、適度に筋肉のついた体である。
燃費の良い体は羨ましいなどと考え、悠莉は最後の一口を噛み締めた。