その時、オレンジジュースの香りがした。
「わざわざごめんね」
そう言って幸江さんが差し出したのは、3枚の便箋だった。
「那央が事故に遭った時、それだけは大事に抱えていたそうよ。私達、ずっと取り乱していたの。渡しそびれてて本当にごめんなさいね」
私は幸江さんに、1つの疑問を抱いた。
「どうして…私に?」
すると幸江さんは、私の手元に視線を移した。
「裏、見てみて」
言われた通りに裏返すと、そこにあったのは。
「…私?」
“夕香へ”
懐かしい文字で、そう綴られていた。
「持って帰って、じっくり読むといいわ」
幸江さんは、涙ぐんだ目でそう言った。
私は頷いて、家路についた。
“夕香へ
< 12 / 19 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop