その時、オレンジジュースの香りがした。
『私の心に住み着かないで』
彼女のもとに灯っていた微かなライトが、完全に消えた瞬間だった。
あんなつもりじゃ、なかったのに。私と那央は、また仲直りできる。そう信じていたのに。でも。
彼女は、那央は、中宮那央は、そうじゃなかった。
自殺した。
きっと私があんなことを言ったから。
『私の心に住み着かないで』
その言葉は、私の選んだ最悪だった。
その言葉の原作は、事件の前日に生まれた。

「夕香!今日こそ放課後オレンジジュース飲みながら一緒に小説書こうよ!」
登校中、そう言ってきたのは那央だった。いつもの明るい笑顔を向けて。
でも私は、その輝く笑顔に応えなかった。背を向けた。
「ごめん。私、英語のテストが赤点だったから勉強しなきゃいけないんだ」
「…そっか」
< 3 / 19 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop