女王陛下のお婿さま


「ちょ! ちょっと待って、お父様! ファビオ王子も落ち着いて!」


 盛り上がる二人の気持ちを反らそうと、アルベルティーナは慌てて話に割って入ったが、状況はそれほど変わらなかった。


「何を迷う事があるんだ、ティナ? ファビオ王子は毒からお前を守り、さらに騒ぎを予見してヘーメルへ使者を出しヨハン王子を連れてきて下さった。こんなに頼もしい殿方は他にはいないだろう」


 クリストフの言う通りだ。ファビオは一見、ガサツで図々しくていい加減で、我が儘に育った王子そのもののように感じる。

 しかし本当は、思慮深く頼りになる。女王陛下の婿としては申し分無いのだ。

 でも……


「……ヨハン王子を連れてきた、と言えば……クラウスは……クラウスは、どうしていますか?」


 何とか話題を逸らそうと口にした話だったが、それはアルベルティーナが一番気になっていた事だった。舞踏会のあの夜から一度も、彼の姿を見ていない。

 クラウスがヨハン王子を連れて来たと聞いてはいたが……今日、ファビオが部屋へ来た時に一緒に来ると思っていたが、それも無かった。


 あの夜……結局クラウスにはちゃんと会えなかった……


 毒で意識が朦朧としていたから、クラウスの声は微かに聞こえたが、その姿を見る事は出来なかったのだ。目を開けた時にはファビオ王子が、自分を心配そうに見つめていた。
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