女王陛下のお婿さま
部屋へ戻ろうとしたファビオを呼び止め、アルベルティーナも立ち上がる。彼が部屋へ来た時はうんざりしていたのに、今は自分がそれを引きとめて。完全に立場が逆転してしまったように感じる。
「どうした……?」
ファビオが優しく聞き返すと、アルベルティーナはやっと顔を上げた。そして――――
「――――私も……諦めの達人、になれると思いますか……?」
随分と長い間、想い続けてしまった。叶う事を願い、信じてきたけれど……そんな夢を見ている時間も、もう無くなってきてしまった。
だから、そろそろ終わりにしなければいけないんだ。
真剣な顔つきのアルベルティーナと目を合わせると、ファビオはふっと笑った。
「そうだな……俺から見たらまだまだだが、素質はあるんじゃないか?」
「そうですか……」
「でも、諦めの達人の師匠として、大事な事を伝え忘れてた」
「大事な事、ですか?」
だがファビオはそこまで言うと、ドアの方へ歩いて行ってしまった。慌ててその後を追うと、彼はドアの前で立ち止まり、アルベルティーナに向き直る。
「――――本当は、諦めない方が難しいんだ」
「え……?」
「自分にとって一番大切な事は、諦めちゃいけないんだ。そしてそれを諦めない事の方が、諦めるよりずっと難しい」