神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
第四節 息吹(アビ・リクォト)
*
太陽の光に青く輝くカルダタス山脈が、眼前に聳(そび)え立っている。
不穏な声を上げる風の精霊達が、深い森の木々をざわざわと揺らめき立たせながら、うごめくように白い帯を引き悲壮な姿を虚空に漂わせる、嘆きの精霊の合間を吹き抜けて行った。
嘆きの精霊。
それは、何か不吉なことが起こる前や、酷い殺戮が起こった後に、流血を嘆いて現れる精霊のことである。
か細いすすり泣きを立てながら、森の只中を無数に漂うその姿は、この場所から程近い場所で、何か不吉な出来事が起こったことを示す証であった。
風の流れに漂う、長い黒髪と純白のマント。
深き地中に眠る紫水晶のような澄んだ右眼が、にわかに鋭く細められる。
騎馬の手綱を片手で引きながら、ゆっくりとした歩調で歩く彼、白銀の森の守り手シルバ・ガイの広い背中に、馬上から、妖精の少女サリオ・リリスが、どこか潜めた声で言うのだった。
『シルバ・・・・こんなに、嘆きの精霊がいる・・・・間違いないわね、絶対何かあったのよ』
『・・・・この先には、確か、狩猟を生業(なりわい)とする者たちの小さな集落があったはずだ・・・・嘆きの精霊の出所は、そこかもしれない』
低く鋭くそう答えたシルバの傍らには、足音も立てずに歩く青い豹の姿があった。
青珠の森の守護者である青き魔豹リューインダイルである。
そして、青き魔豹を挟んだ向こう側を黙々と歩いているのは、甘い色香が漂う秀麗な顔を憮然とした表情に満たし、真っ直ぐに前を見つめたまま一言も発することもない、青珠の森のもう一人の守り手、レダ・アイリアスであった。
リューインダイルとレダが探す【息吹(アビ・リクォト)】の気配が、微かながらもこの高峰の何処(いづこ)からか風に混じり漂ってきている。
それと同時に、今までまったく感じ取る事の出来なかった、白銀の森のもう一人の守り手、アノストラールの気配もまた、微かだが感じ取れるほどになってきていた。
間違いなく、カルダタスの裾で何かが起こっているはずだ・・・
太陽の光に青く輝くカルダタス山脈が、眼前に聳(そび)え立っている。
不穏な声を上げる風の精霊達が、深い森の木々をざわざわと揺らめき立たせながら、うごめくように白い帯を引き悲壮な姿を虚空に漂わせる、嘆きの精霊の合間を吹き抜けて行った。
嘆きの精霊。
それは、何か不吉なことが起こる前や、酷い殺戮が起こった後に、流血を嘆いて現れる精霊のことである。
か細いすすり泣きを立てながら、森の只中を無数に漂うその姿は、この場所から程近い場所で、何か不吉な出来事が起こったことを示す証であった。
風の流れに漂う、長い黒髪と純白のマント。
深き地中に眠る紫水晶のような澄んだ右眼が、にわかに鋭く細められる。
騎馬の手綱を片手で引きながら、ゆっくりとした歩調で歩く彼、白銀の森の守り手シルバ・ガイの広い背中に、馬上から、妖精の少女サリオ・リリスが、どこか潜めた声で言うのだった。
『シルバ・・・・こんなに、嘆きの精霊がいる・・・・間違いないわね、絶対何かあったのよ』
『・・・・この先には、確か、狩猟を生業(なりわい)とする者たちの小さな集落があったはずだ・・・・嘆きの精霊の出所は、そこかもしれない』
低く鋭くそう答えたシルバの傍らには、足音も立てずに歩く青い豹の姿があった。
青珠の森の守護者である青き魔豹リューインダイルである。
そして、青き魔豹を挟んだ向こう側を黙々と歩いているのは、甘い色香が漂う秀麗な顔を憮然とした表情に満たし、真っ直ぐに前を見つめたまま一言も発することもない、青珠の森のもう一人の守り手、レダ・アイリアスであった。
リューインダイルとレダが探す【息吹(アビ・リクォト)】の気配が、微かながらもこの高峰の何処(いづこ)からか風に混じり漂ってきている。
それと同時に、今までまったく感じ取る事の出来なかった、白銀の森のもう一人の守り手、アノストラールの気配もまた、微かだが感じ取れるほどになってきていた。
間違いなく、カルダタスの裾で何かが起こっているはずだ・・・