神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
「一体何があった?教えてくれ、わかるはずだ・・・・」
 その時、低く艶のある声に彩られた彼の問いかけに、まるで呼応するかのように、幼い少女は、ゆっくりと閉じていた瞳を開いたのである。
 そして、僅かに彼の方へ首を傾けると、か細く消え入りそうな声で答えたのだった。
「・・・・銀の・・・銀の翼が・・・・空から・・・落ちて来たの・・・・」
「銀の・・・翼?それは竜のことか?」
 シルバの問いかけに、少女は、力なく微かに頷くと、再び、ゆっくりとその瞳を閉じたのだった。
「早く手当てをしてやらないと・・・!」
 レダは、大切そうに少女の小さな体を抱え上げると、そのまま、リューインダイルの元へ駆け出さんとした。
 しかし、不意に、そんな彼女の肩を、シルバの片手が掴んだ。
 藍に輝きながら揺れる艶やかな黒い前髪の下で、彼女は、綺麗な眉を眉間に寄せて怒ったように言うのである。
「何をする!?」
「・・・・その子は、このまま集落へ連れて行く。手当ては・・・恐らくいらない」
 ゆっくりと振り返ったレダの激しい視線を、紫色の隻眼で真っ直ぐに受け止めながら、鋭利で冷静な表情でシルバは静かにそう言った。
「何故!?こんな小さな子供を見殺しにするつもり!?」
 綺麗な顔を険しく歪め、殊更鋭くこちらを睨みつける彼女の腕の中から、シルバは、無言のまま、やけに落ち着いた面持ちで少女の体を抱き取ったのである。
「何をするつもりなの!?」
 そう言ったレダの声には振り返らずに、彼は、大きな腕に少女を抱えたまま、純白のマントを翻し、小川に架かる橋を、嘆きの精霊に覆い尽くされた集落へ向けて歩き出したのだった。
 実に腑に落ちない顔つきで、蛾美な眉を眉間に寄せたまま、レダは、慌てて彼の背中を追った。
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