神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
その隣に並んで歩きつつ、相変わらず険しい表情をしながら、彼女は、白い闇に覆い尽くされる集落を、澄んだ紫の隻眼で見つめているシルバの沈着な横顔をちらりと見やる。
この青年は、どうしてこうも冷静でいられるのだろうか?
どんなに彼女が憎しみを向けても、その表情が揺らぐ事はない。
よほど豪胆で無神経であるか、単に感情を表に出さないだけなのか・・・・・・。
父を殺した男の心根など、推し量ってやるつもりもない・・・心中(しんちゅう)でそんな悪態をつきながら、レダは、秀麗な顔を険しく歪めたまま、その鮮やかな紅の両眼を集落の方へと向けたのである。
ゆらゆらと揺らめく白闇に、時折浮かび上がる白く悲壮な人の顔。
深く白い霧に覆い尽くされた集落に足を踏み入れると、無数にうごめく嘆きの精霊のすすり泣きが、殊更大きく辺りに響き渡っていた。
焼き払われ崩れ落ちた家屋、まだ生々しく地面に転がる、焼け爛れた人々の骸。
瓦礫と化した家屋の壁からは、透明で白い無数の腕が伸びて、まるで生ける者たちを誘うかのようにゆらゆらとうごめいている。
その無残な有様を目の当たりにして、レダは、鮮やかな紅の両眼を鋭く瞳を細めると、苦々しい声色で小さく叫びを上げたのだった。
「これは・・・一体・・・っ!?」
「闇の者に、襲撃されたんだろう。
この惨状だ・・・・嘆きの精霊がこれほどまで増えた理由が・・・よくわかる」
どこか驚愕したように、きょろきょろと辺りを見回しているレダを振り返ることなく、シルバは低めた鋭い声でそう言った。
澄んだ紫水晶の右目が、冷たい風に千切れていく霧の合間から、集落の奥を真っ直ぐに見やる。
彼の視界の中で、カルダタス山脈の裾、その茶色の岩肌が漂う白い闇の最中に見え隠れしていた。
その時、鋭く細められたままのシルバの右目に、にわかには信じがたい光景が飛び込んできて、彼は一瞬、純白のマントを羽織る広い肩を振わせたのである。
「・・・・・・・アノストラール!?」
風に千切れていく白い闇の合間に、浮かび上がるカルダタスの裾。
ゆっくりと確実に近づきつつあるその光景・・・・
この青年は、どうしてこうも冷静でいられるのだろうか?
どんなに彼女が憎しみを向けても、その表情が揺らぐ事はない。
よほど豪胆で無神経であるか、単に感情を表に出さないだけなのか・・・・・・。
父を殺した男の心根など、推し量ってやるつもりもない・・・心中(しんちゅう)でそんな悪態をつきながら、レダは、秀麗な顔を険しく歪めたまま、その鮮やかな紅の両眼を集落の方へと向けたのである。
ゆらゆらと揺らめく白闇に、時折浮かび上がる白く悲壮な人の顔。
深く白い霧に覆い尽くされた集落に足を踏み入れると、無数にうごめく嘆きの精霊のすすり泣きが、殊更大きく辺りに響き渡っていた。
焼き払われ崩れ落ちた家屋、まだ生々しく地面に転がる、焼け爛れた人々の骸。
瓦礫と化した家屋の壁からは、透明で白い無数の腕が伸びて、まるで生ける者たちを誘うかのようにゆらゆらとうごめいている。
その無残な有様を目の当たりにして、レダは、鮮やかな紅の両眼を鋭く瞳を細めると、苦々しい声色で小さく叫びを上げたのだった。
「これは・・・一体・・・っ!?」
「闇の者に、襲撃されたんだろう。
この惨状だ・・・・嘆きの精霊がこれほどまで増えた理由が・・・よくわかる」
どこか驚愕したように、きょろきょろと辺りを見回しているレダを振り返ることなく、シルバは低めた鋭い声でそう言った。
澄んだ紫水晶の右目が、冷たい風に千切れていく霧の合間から、集落の奥を真っ直ぐに見やる。
彼の視界の中で、カルダタス山脈の裾、その茶色の岩肌が漂う白い闇の最中に見え隠れしていた。
その時、鋭く細められたままのシルバの右目に、にわかには信じがたい光景が飛び込んできて、彼は一瞬、純白のマントを羽織る広い肩を振わせたのである。
「・・・・・・・アノストラール!?」
風に千切れていく白い闇の合間に、浮かび上がるカルダタスの裾。
ゆっくりと確実に近づきつつあるその光景・・・・