神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
『アノストラール!目を覚ませ!【息吹(アビ・リクォト)】を青珠の守り手に返さねばならん!!こうやって遊んでる暇はないんだぞ!!アノストラール!!』
 そう言った彼の眼前から、銀の輝きと共に再び彼の姿が消えた。
 シルバはハッと背後を振り返る。
 白い闇に出来た歪んだ空間の狭間に、優美な銀色の長い髪が乱舞し、アノストラールの美麗な姿が瞬時にそこに現れる。
 刹那、彼の掌から、またしてもあの強力な魔力の塊たる銀の光珠が豪速で解き放たれたのだった。
 白闇の虚空を振動させて、激しく発光する光の珠が急激にシルバに向かって迫り来る。
 銀色の結界が寸前でそれを受け止めた時、激しく発光する光の中で、シルバは、その後方で驚愕に両目を見開いているレダに向かって叫んだのだった。
「レダ!周りにいる嘆きの精霊を鎮めてくれ!アノストラールが正気に戻らないと【息吹(アビ・リクォト)】も取り戻せない!青珠の守り手なら出来るはずだ!」
 彼の声にハッと肩を揺らすと、レダは、何故彼がそんなことを言うのか訳もわからず、怪訝そうに綺麗な眉根を寄せたのだった。
 彼の指図など受けたくもない・・・しかし、【息吹(アビ・リクォト)】が絡むとなると嫌でも彼に従うしかないのだろう・・・
 悔しそうに唇を噛みしめると、鮮やかな紅の瞳でちらりとあの少女を見やり、彼女は、弓鞘から青玉の弓を引き抜いたのだった。
 その手に出現した青い閃光の矢を、『水の弓(アビ・ローラン)』と呼ばれる魔弓にそれをつがえると、レダは、嘆きの精霊がうごめく大地に狙いを定めて、青く透明な弓弦(ゆんづる)を一杯に引き絞ったのである。
 美しい顔を凛と鋭い表情に引き締め、レダの綺麗な裸唇が、人のものにあらざる古の言語を紡ぎ出した。
『深き地中に咲く青玉の華 怒れる者に静寂を 嘆きし者に安らかなる眠りを 我が呼び声に答えよ 其が花びら 光在る大地に咲き誇れ 
其は美しき鎮めの華なり(ローザ・イクシーヴ・ジーハ)』
 彼女の声に呼応するかのように、閃光の矢がつがえられた青玉の弓が、果てしない青の光を放ち、煌びやかで荘厳(そうごん)な輝きを白い闇に乱舞させた。
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