神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
『・・・・!?』
それは、正に一瞬の出来事。
気付いた時には、既に、魔物の両腕が黒炎をあげて宙を舞っている。
だが、レダの体には一片の傷すら刻まれてはいない。
その迅速で見事な太刀筋に、思わず驚愕しながらも、レダは、咄嗟に、しなやかなその身を翻し、魔物の元から素早く跳び退いたのである。
水の弓(アビ・ローラン)を瞬時に構えながら、いつの間にやら隣に立っていたシルバの冷静な横顔を、ほっとしたような、しかし悔しそうな、そんな複雑な表情で見上げたのである。
「・・・・借りを作った、必ず返すわ。だけど、感謝などしない」
「別に、返す必要もない・・・君に感謝されようなどとも、思ってはいないよ」
相変わらずの冷静な表情と口調でそう言うと、シルバは、握っていた【息吹】をレダの鼻先に差し出した。
綺麗な眉を悔しそうに眉間に寄せて、彼の手からそれを受け取ると、レダは、腰に下げた小さな絹の袋に、青珠の森の命たる【息吹(アビ・リクォト)】を丁寧に収め、凛と強い表情で、苦悶に身を捩っている魔物を睨み据えたのだった。
鮮やかな紅の瞳が鋭く細められ、にわかに、恐ろしい形相でこちらを振り返った魔物に向け、青い閃光の矢をつがえた青玉の弓を構えたのだった。
「手出しは無用よ・・・・あやつは、私が仕留める・・・・悔しいけど、貴方の言った事は、当たっていた・・・・・・」
その言葉に、シルバの澄んだ紫色の右目が、ちらりと、厳(いかめ)しく歪んだ彼女の秀麗な横顔を見た。
『おのれ!許さぬぞ!!』
実に凶暴な咆哮を上げた魔物の体を、みるみる黒い炎が包み込んでいく。
それが大きく虚空に伸び上がると、揺らめく火の粉の合間から姿を現したのは、ばっくりと開いた口に五本の鋭利な牙と、額に五つの赤い目を持つ、のたうつ黒い大蛇の形をした不気味な魔物であったのだ。
大きく口を開けて、地面を叩くようにその長い体をうねらせると、口の中に貯めた黒き炎を一気に二人の方へ向けて解き放ったのだった。
空を焼き尽くすように走る炎が迅速で眼前に迫る。
凛と輝くレダの紅の瞳が真っ向からそれを睨むと、一杯に引き絞られた青い弓弦(ゆんづる)が涼やかな音を上げ、青き閃光の矢が、一直線に空へと放たれた。
それは、正に一瞬の出来事。
気付いた時には、既に、魔物の両腕が黒炎をあげて宙を舞っている。
だが、レダの体には一片の傷すら刻まれてはいない。
その迅速で見事な太刀筋に、思わず驚愕しながらも、レダは、咄嗟に、しなやかなその身を翻し、魔物の元から素早く跳び退いたのである。
水の弓(アビ・ローラン)を瞬時に構えながら、いつの間にやら隣に立っていたシルバの冷静な横顔を、ほっとしたような、しかし悔しそうな、そんな複雑な表情で見上げたのである。
「・・・・借りを作った、必ず返すわ。だけど、感謝などしない」
「別に、返す必要もない・・・君に感謝されようなどとも、思ってはいないよ」
相変わらずの冷静な表情と口調でそう言うと、シルバは、握っていた【息吹】をレダの鼻先に差し出した。
綺麗な眉を悔しそうに眉間に寄せて、彼の手からそれを受け取ると、レダは、腰に下げた小さな絹の袋に、青珠の森の命たる【息吹(アビ・リクォト)】を丁寧に収め、凛と強い表情で、苦悶に身を捩っている魔物を睨み据えたのだった。
鮮やかな紅の瞳が鋭く細められ、にわかに、恐ろしい形相でこちらを振り返った魔物に向け、青い閃光の矢をつがえた青玉の弓を構えたのだった。
「手出しは無用よ・・・・あやつは、私が仕留める・・・・悔しいけど、貴方の言った事は、当たっていた・・・・・・」
その言葉に、シルバの澄んだ紫色の右目が、ちらりと、厳(いかめ)しく歪んだ彼女の秀麗な横顔を見た。
『おのれ!許さぬぞ!!』
実に凶暴な咆哮を上げた魔物の体を、みるみる黒い炎が包み込んでいく。
それが大きく虚空に伸び上がると、揺らめく火の粉の合間から姿を現したのは、ばっくりと開いた口に五本の鋭利な牙と、額に五つの赤い目を持つ、のたうつ黒い大蛇の形をした不気味な魔物であったのだ。
大きく口を開けて、地面を叩くようにその長い体をうねらせると、口の中に貯めた黒き炎を一気に二人の方へ向けて解き放ったのだった。
空を焼き尽くすように走る炎が迅速で眼前に迫る。
凛と輝くレダの紅の瞳が真っ向からそれを睨むと、一杯に引き絞られた青い弓弦(ゆんづる)が涼やかな音を上げ、青き閃光の矢が、一直線に空へと放たれた。