神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
 放たれた閃光の矢が、弾ける青い輝きを纏い、虚空でその姿を鋭利な半月形に変えると、平たく太い光の帯を引きながら、薙ぐような豪速をもって、力を削がれ苦悶にのたうつ魔物にまかり飛んだのである。
 ぎゅぅんと鈍い音を立てて半回転したその鋭い切っ先が、真っ向から蛇の頭に食い込んだ。
 大きな波音が周囲に響き渡り、弾ける青い輝きが幾筋もの鋭利な刃となって、次から次へと、長く黒い魔物の体を虚空から容赦もなく貫き通し、水音を立てて大地へと帰ってく。
 断末魔の悲鳴すら上げることの出来なくなった魔物は、一度大きく牙を剥き、その黒い頭をもたげると、そのまま力尽き、轟音を響かせて地面に倒れ込んだのである。
 睨みつけるようにその姿を見たレダの鮮やかな紅の瞳の中で、音も立てずに、はらはらと白い灰になる魔物の姿。
 吹き付ける冷たい風に漂ったそれは、やがて、虚空の最中にゆるやかに消えて行った。
 秀麗な顔を厳(いかめ)しい表情に歪めたまま青玉の弓を下ろしたレダの横顔を、シルバの紫色の右目がちらりと見やる。
 彼の視界で、藍に輝きながら揺れる彼女の黒い髪。
 全くこちらを振り返ることのない彼女に、彼は、いつもながらの落ち着き払った声で言うのである。
「見事な弓の腕だな?流石・・・・青珠の守り手、君はいい弓士だ。
怪我は大丈夫か?」
 その言葉に、レダは、綺麗な眉を眉間に寄せると、片手で首の傷を押さえて、鋭い眼差しのまま彼の端正な顔を睨むのだった。
「貴方に心配などされたくないわ・・・・!」
「・・・・その威勢があれば大丈夫そうだな」
 そんな相変わらずの彼女の態度に、別段臆した様子も気を悪くした様子もなく、シルバは、唇だけで小さく笑って見せると、純白のマントを翻し、集落の入り口に向けて歩き出したのである。
 長い黒髪が揺れる彼の広い背中を、睨みつけるように見ながら、レダは、水の弓を弓鞘に収めると、不愉快そうな表情をして、無言のまま彼の後を追うのだった。
 この男は・・・・・・一体何を考えているのだろう・・・・
 そんな思いがレダの脳裏を過ぎった時、不意に、瓦礫に埋もれた家屋をしなやかに飛び越えて、良く見知った青い豹が、足音も立てずにレダの目の前へと姿を現したのである。
『レダ』
 聞き慣れた声が彼女の名を呼んだ。
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