神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
『ま、まぁ・・・・良いではないか・・・・【息吹(アビ・リクォト)】は青珠の守り手に渡されたことではあるし・・・・それに、おぬしとて、私が、あの精霊どもの泣き声を、身の毛がよだつ程苦手としていることぐらい知っているではないか?』
『どういう言い訳だそれは?』
 珍しく怒ったような顔をするシルバの肩を、相変わらずばつが悪そうな表情のアノストラールがぽんっと叩いた。
 カルダタスの高峰から、太陽の断片を浚った冷たい風が吹き抜けていく。
 その風に混じる言い様もない不穏な気配に、ふと、シルバとアノストラールの視線が、青き高き峰を仰いだ。
 鋭い視線で高峰を見やりながら、静かな口調でシルバが言う。
『・・・・魔の者の気配だ・・・・北に移動している』
『あやつらのこと、なにか良からぬ事を企んでいるのだろう。
なぁ、シルバ・・・・おぬしの古い友たるアーシェの者は、既に、ゼラキエルを追っているのだろうな?』
『・・・・ああ』
『おぬしも・・・・このままゼラキエルを追うがいい・・・・』
『・・・・・・』
 実に冷静な響きを持つアノストラールの言葉に、鋭い表情のまま、シルバは押し黙ると、先程から、ずっと胸にしがみついたままのサリオの体を、静かに自分から離したのである。
 そんな彼の顔を、サリオの虹色の瞳が、どこか不安そうに見つめすえる。
 その時、足音も立てずにこちらに歩み寄って来た青珠の森の守り手リューインダイルが、白銀の森の守り手たちに向かって、静かな口調で声をかけてきたのだった。
『【魔王の種】を持ち出された事は、我らが落ち度だ・・・・・。
まさか、種たる者自らが封を打ち破り、森に魔を呼び寄せるとは、さすがに考えも及ばなかった・・・』
 白銀の守り手たちの視線が、ゆっくりと、青き魔豹リューインダイルの方を向く。
 そんな彼の僅か後方には、凛と強い表情をする美しき弓士レダの姿があった。
 リューインダイルは、金色の強い眼差しで白銀の守り手たちを仰いだまま、静かな口調で言葉を続けたのである。
< 127 / 198 >

この作品をシェア

pagetop