神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
 その風の最中に、再びリューインダイルの声が静かに響き渡る。
『生を受けてしまった【魔王の種】は・・・・邂逅(かいこう)せねばその命を永遠に絶つことは出来ない・・・・因果なものだな・・・・?
我らはこのまま、【切望の石(ウィシュ・ド・メイル)】のある地まで向かう。
途中まで道すがらは同じだ・・・・共に来ぬか?シルバ?』
 『・・・・・・・・別に、俺は構わないが・・・・』
 ふと、シルバの澄んだ紫色の右目が、リューインダイルの背後で、先程から憮然とした表情をしているレダの秀麗な顔をちらりと見やった。
 その視線を追って、リューインダイルの金色の瞳もまた、ゆっくりとレダを振り返る。
 彼女は、その紅の瞳を僅かに細めると、甘い色香が漂う裸唇を開くのだった。
『リューイがそれを望むなら・・・・別に、私は何も言わないわ』
『・・・・だそうだ・・・シルバ、ならば、このまま我らと来るがいい・・・それに・・・』
 そこまで言って、リューインダイルは、ふと言葉を止めた。
 怪訝そうに首を傾げたシルバに、どこか思惑有りげな視線を向けると、彼は、まるで笑うように金色の両眼を細めたのである。
『シルバが行くなら、私も行く!』
 その時、先程から実に不安そうな表情でシルバの端正な横顔を見ていたサリオが、彼の二の腕を掴んだ。
 シルバは、いつになく厳(いかめ)しい表情で彼女の可愛らしい顔を見やると、華奢なその肩を柔らかく掴み、虹色の瞳を真っ直ぐに見つめながら諭すような口調で言うのだった。
『此処から先に、君を連れて行く訳にはいかない・・・・俺ですら命を落とすかもしれないんだ。君を巻き込む訳にはいかない。大人しくディアネテルの元へ帰るんだ』
『嫌よ!だって・・・・!』
 虹色の瞳を潤ませて、尚も食い下がるサリオに、先程からずっと口を閉ざしたままだったアノストラールが、落ち着き払った声色で言うのである。
『シルバの言うと通りだサリオ。
そなたは私と共に森へ帰るが得策・・・シルバとて、次期女王たるそなたを命の危機に晒す訳にはいかぬのだ』
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