神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
 暮れかけた空の光が淡々と注ぐ中、鮮血の噴水が夕闇を深紅に彩り、体を胴から真っ二つに切り裂かれた盗賊が、どしゃりと鈍い音を立てて石畳の上へと崩れ落ちたのである。
 朱の衣の長い裾を棚引かせ、背後から迫った鋼の斬撃を、横に素早く身を翻して退くと、ジェスターが翻す金色の刃の切っ先が、血なまぐさい空を迅速で引き裂き、不貞な輩の無骨な胸を、一気に背中まで突き貫したのだった。
 そのままの姿勢で、ジェスターの長い足が、横から剣を振り下ろさんとした輩の横面をしたたかに蹴りつける。
 鼻血を飛び散らせてもんどり打った盗賊の背後から、懲りもせずにまた新たな輩が鋼の剣を翻してきた。
 若獅子の鬣のような見事な栗毛が夕闇の最中に乱舞する。
 鮮血を飛び散らせ、骸から引き抜かれた金色の刀身が、空を二分する鋭利な閃光の弧を描き、瞬きも許さぬ迅速(はや)い斬撃が、その首を一瞬にして虚空に跳ね上げた。
 食い下がるように、背後から迫る敵のみぞおち辺りをブーツのかかとで蹴りつけると、野をかける獣のようなしなやかで柔軟な撥条(ばね)を持つ彼の肢体が、見事な跳躍(ちょうやく)で敵の頭上を舞ったのである。
 彼の纏う朱の衣が災厄の戦旗の装いで、ほの暗い夕闇の虚空に棚引いた。
 空中で軽く体を捻り、落ち行くままに金色の斬撃を振り下ろすと、禍々しい金色の刃が敵の肩から胸までを、容赦なく二分する程斬り裂いたのだった。
 吹き上がる返り血を退くように、着地の瞬間素早く後方に飛び退き、眼前から刃を振りかざす輩に、刹那の速さで金色の刃を翻す。
 胴体から斬り離された生首が、大きく口を開いたまま、紅の帯を引いて茜色に染まる虚空に跳ね上がった。
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