神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
「口の利き方を知らないだけで・・・・・・やはり、腕は確かなのですね?貴方は?」
 細身の剣を腰の鞘に収めながら、どこか悪戯気な、しかし、どこか感心したような口調でそう言って、リーヤは、ジェスターの凛々しく端正な顔を、大きな紺碧色の瞳で静かに仰いだのである。
 その言葉に僅かばかりムッとした顔をして、ジェスターは、鮮やかな緑玉の瞳で、まじまじとリーヤの綺麗な顔を見つめすえたのだった。
 あの戦いの最中で、僅かに返り血を浴びてしまったのだろうか、彼女の白く美しい頬に、小さな赤い斑点が描かれている。
 そんな彼女に向かって、不愉快そうな声色で彼は言う。
「どういう意味だそれは?」
「言葉の通り、誉め言葉です」
「・・・・・・・・」
 先刻、彼が口にした台詞と同じ台詞がリーヤの口から出て、思いがけず揚げ足を取られる形になったジェスターは、形の良い眉を眉間に寄せ、柄にも無く次の言葉を失ったのだった。
 そして、してやったりと言うように艶やかに笑うリタ・メタリカの姫の綺麗な顔を、ただ、ひたすら不機嫌そうに見つめるばかりである。
「・・・・ったく」
 何やらばつが悪そうな顔つきのまま、彼は、朱の衣を纏う広い肩で小さくため息をついた。
 そして、何を思ったか、彼は、不意にその片手を、勇ましく美しいリタ・メタリカの姫君の元へ差し伸ばすと、彼女の白く綺麗な頬に長い指先を柔らかく触れさせたのだった。
 紺碧色の巻髪を揺らし、リーヤは、驚いたように肩を振わせる。
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