神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
 それを確認にして、彼はすぐさま馬腹を蹴る。
黒毛の騎馬は高く嘶(いなな)いて再び荒涼たる大地を、北に向けて疾走し始めたのだった。
 巧みに手綱を操っているシルバの右目に、遠く霞むように見えてきているのは、カルダタス山脈と呼ばれる高峰の山々の連なりであった。
 その峠を越えれば、大リタ・メタリカ王国の王都より北西の国々に伸びる大街道銀楼の道(エルッセル)に出ることが出来る。
『森から・・・大分離れたな・・・・』
 長い黒髪と純白のマントを棚引かせる疾風に、呟くような彼の声が混じった。
『うん・・・・でも、大丈夫、お母様の結界は絶対に魔物なんかに負けないから』
 くったくなくそう言ったサリオの声に、シルバは、端正に整った顔を僅かばかり複雑な表情で歪め、凛々しい唇で苦笑する。
『白銀の森の守り手が・・・まさか、二人とも森を離れることになるとは・・・・
これも、もしかしたら、あの魔王の策略なのかもしれないな・・・』
『まさか、私達の森には【魔王の種】はなかったわ・・・・あるとすれば、むしろ、青珠(せいじゅ)の森の方よ・・・・それを心配して、アノスは森を発ったんじゃない?
もし、策略だとすれば・・・・自分に反目しそうな、白銀の森の守護者を抹殺するのが目的・・・だと思う』
 サリオの言っていることは、確かに的を射ている。
 シルバは、小さく微笑して、再び馬腹を蹴った。
 更に速度を上げて黒毛の騎馬は、カルダタス山脈に向かってひたすら荒野を駈け抜けていく。
 天空の太陽の断片が、金色に輝きながら風の精霊達の最中に舞散った。
 白銀の森とは、このシァル・ユリジアン大陸に点々と存在する妖精の森の一つで、点在する妖精の森の中でも唯一女王が統治している森の名であった。
 実は、この黒髪の魔法剣士シルバは、その森の守護者であり、そんな彼と行動を共にする少女サリオは、森の統治者である女王ディアネテルの一人娘であるのだった。
 白銀の森には、シルバの他にもう一人守護者が存在する。
 それが、アノストラールと言う名の白銀の竜であるのだ。
 
< 45 / 198 >

この作品をシェア

pagetop