神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
 この姫君は、どうやら、ただわがままで気性が激しいだけでなく、きちんと相手を見、客観的に観察することの出来る、冷静な一面も持ち合わせているようだ。
 共に王都を出て数日の間、さりげなくずっと彼の様子を伺っていたのだろう。
まぁ、いくらスターレットの友とは言え、素性も知らぬ若い青年に着いてきているのだ、当然といえば当然なのかもしれないが・・・・
 ジェスターは、そんな彼女の安らかで秀麗な寝顔を、細めた緑玉の眼差しで見つめたまま、朱の衣を纏う肩を小さくすくめたのだった。
 そして、どこかしら深い悲しみを抱えるその鮮やかな緑の両眼を、ゆっくりと、また、星屑の降り注ぐ広大な大地へと向けたのである。
 黒絹の天空に輝く、欠けた金色の月が、荒涼たる地の果てを静かに照らし出す、そんな夜の事であった・・・・


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