神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
    *
 天空に輝く太陽が照らし出す荒涼たる大地に立って、燃え盛る緑の炎のような異形(いぎょう)の瞳が、今、真っ直ぐに、時の彼方に忘れ去られた街を、小高い丘の上から見下ろしていた。
 凛々しく端正なその顔をどこか厳(いかめ)しく歪めて、若獅子の鬣(たてがみ)のような見事な栗毛を荒れ果てた地を渡る疾風に泳がせている。
 彼の纏う鮮やかな朱の衣の長い裾が、吹き付ける風に乱舞した。
 どこか禍々しく、そして神々しくもある異質の気配を醸し出す金色(こんじき)の大剣を背鞘に負った長身の青年。
 金色の二重サークレットを広い額に飾った彼は、他でもない、最強と呼ばれる戦人(いくさびと)、魔法剣士たる青年、ジェスター・ディグであった。
 そして、その僅かばかり後ろには、晴れ渡る空の色を映したような紺碧色の大きな両眼を、どこか驚いたように見開いたリタ・メタリカの王女リーヤティアの姿があった。
「これは・・・・」
 馬の手綱を地面に突き出た岩に結び着けて、リーヤは、ジェスターの異形と呼ばれる緑の瞳が見つめる先を、真っ直ぐに見つめたのである。
 岩山に囲まれた荒涼たる大地の最中、その窪んだ土地に、幾百年もかけて降り積もっただろう砂に埋もれた、さほど大きくない街の遺跡が凄然と横たわっていた。
 朽ち果てて、今や僅かな土壁しか残さない家屋の後。
 石畳の道が通っていただろう場所には、象牙色に輝く砂が、ただ降り積もるばかりであった。
 忘却の街(ファルマス・シア)と呼ばれる、地図にすらその名を残さない、忘れられた街の亡骸が、砂混じりの風の最中に、静かにそこに佇んでいた。
 言葉を失ったままでいるリーヤティアを振り返ることもなく、ジェスターは、いつになく淡々をとした口調で静かに言うのだった。
「此処が・・・・・・アーシェの一族が生まれ、その力を蓄えた土地・・・・・・
真実の名を炎の結晶(アシェ・ギヴィシム)・・・」
「アシェ・ギヴィシム・・・?」
 リーヤは、半ば呆然としたような表情をして、ゆっくりと、ジェスターの端正な横顔を顧みる。
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