神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
 尚も振り向かぬまま、じりじりと焼け付くように打ち寄せる左胸の痛みを一切その表情には出さずに、彼は、ただ淡々と言葉を続けた。
「400年前・・・・一族から反逆者を出した朱き獅子(アーシェ)の民は、この土地を棄てた・・・・だが、一族の者は、死した時には必ず、この地に還る・・・・」
「それは、どういう意味です・・・?」
「・・・アーシェの者の骸は、アーシェの者の手によって、必ずこの土地に葬られる・・・・それが、一族の慣わしだ・・・・
此処は、死せる一族の力を全て吸収し、生ける一族にその力を開放する地・・・・」
「・・・・・・・・・」
 リーヤは、彼のその意味深な言葉の全てを理解しきれずに、どこか戸惑ったように押し黙ると、まじまじと、どこか影のある面持ちを醸し出す、ジェスターの端正な横顔を見つめるばかりであった。
 リタ・メタリカの美しき姫の艶やかな紺碧の巻髪が、吹き付ける風に浚われて秀麗なその頬にかかる。
 彼女は、一度肩で大きく息をつくと、凛とした強い表情になって、ゆっくりとその桜色の綺麗な唇を開いたのである。
「ジェスター・・・やはり貴方は、アーシェの一族の者だったのですね?
ずっと・・・聞きそびれていました、貴方は、古の呪いに従ってアーシェに産まれたという、双子のうちの一人・・・そうなのですね?」
 強い確信を持った彼女の毅然としたその言葉に、ジェスターは、そこで初めて、燃え盛る炎のような鮮やかな緑玉の瞳を、凛と立つ花のような強い表情をする、リーヤティアの秀麗な顔に向けたのだった。
 何をも語らぬ彼の両眼が、真っ直ぐに彼女の瞳を捕らえる。
 このリタ・メタリカで異形と呼ばれる、燃えるように鮮やかで神秘的な緑の両瞳。
 太陽の光を浴びて金色に輝く見事な栗色の髪の下で、揺れるように輝く緑の炎のような眼差しが、あの夜、彼女の内に起こった奇妙な感覚を再びその体に思い起こさせていく。
眠っていた何かが呼び起こされるような、体の奥で何かがざわめく、実に不可解で奇妙で、それでいてどこか甘美なあの感覚。
 緑の瞳は異形なり、それ、愛でるは数奇なり・・・・
 
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