神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
 階段を降りていくにつれ、だんだんと小さくなっていく地上の光。
 二つの足音だけが響き渡る暗い空間は、さほど狭くはない。
 やがて完全に地上の光が届かなくなった時、突然、その目の前に眩いばかりの巨大な二つの松明(たいまつ)の炎が、轟音と共に灯ったのである。
 その煌々(こうこう)たる輝きに浮び上る、荘厳(そうごん)とした広い空間の中心には、繊細な彫刻を施された四本の石の柱が平行に立ち、その石柱が囲む床の真中には、先ほど地上で見たものと同じ、炎を纏う獅子の紋章が大きく刻まれていたのだった。
 それを見つめたまま、何故彼がこんな場所に自分を連れて来たのか、まったくその訳も把握できないまま、リーヤは、思わずその綺麗な眉を眉間に寄せたのである。
 そんな彼女に、ゆっくりと向き直ると、鋭い無表情のまま僅かにその燃え盛る炎のような緑玉の瞳を細めて、淡々とした口調でジェスターは言った。
「お前が本当に【破滅の鍵】なら・・・・取って来れるはずだ。
お前の身をお前自身で守るための【糧(かて)】が、此処に眠っている・・・・
ただし、勇気がないなら、此処で辞めておけ・・・・どうするかは、お前が決めろ、全てはお前次第だ・・・」
 「・・・私が・・・【破滅の鍵】?あの闇の魔法使いも、私をそう呼びました・・・【破滅の鍵】とは一体何の事なのです?」
 どこか神妙な面持ちで綺麗な眉根を寄せるリーヤの秀麗な顔に、煌々と燃える巨大な松明の光が、凛と立つ花のような強気な影を描いている。
 率直な疑問を口にする彼女に、彼は、静かに答えて言うのだった。
 「ラグナ・ゼラキエルが己にかけた呪いは、アーシェの力もロータスの力も跳ね返す程の強いものだ・・・・つまり、二つの一族の持つ力だけでは、奴を永遠に滅することは出来ない・・・
400年前の戦の後、ロータスの大魔法使いと、アーシェの大魔法使いは、ゼラキエルを滅するための手段を作った・・・・それが、【鍵】だ」
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