神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
「それは・・・・・?」
「ゼラキエルが再び蘇った時、アーシェでも、ロータスでもない者から奴を完全に滅する力を持つ者を誕生させる・・・・
二つの一族の力でリタ・メタリカの王家にかけた呪文・・・・奴の復活が確信されれば、必ず【破滅の鍵】が王家から誕生するというな。
アーシェの一族に呪われた二人の子が産まれ落ち、それを追うように王家に産まれたのが、他でもない・・・お前だ、リーヤティア」
「・・・・・・・。」
 やけに静かに、しかし、どこか鋭い響きを持って紡がれた彼の言葉に、リーヤは、さして驚いた顔もせず、ただ、凛とした強い眼差しのまま真っ直ぐに、異形と呼ばれる鮮やかな緑の瞳を持つアーシェの魔法剣士の顔を見つめすえた。
 彼は、そんな彼女の強い眼差しを受け止めたまま、再びその唇を開く。
「【鍵】たる者の【糧(かて)】は、此処にある。
勇気があるなら、このまま真っ直ぐに歩け・・・此処から先は、俺には手出しできない・・・お前の身を守れるのは、お前しかいない」
「・・・・わかりました・・・・二言はありません、自分の身は自分で守ります・・・・」
 凛と立つ花のような毅然とした表情で、リーヤは、小さく頷くと腰に履いた細身の剣(レイピア)を馴れた手つきで抜き払う。
 その大きな紺碧色の瞳を爛と鋭く閃かせ、彼女は、秀麗なその顔を戦人(いくさびと)のような勇壮さで引き締めて、緋色のマントを翻し、ゆっくりと、四本の石柱が囲む炎の獅子の紋章へとその足を進めて行ったのである。
 そして、その爪先が炎の獅子の紋章に触れた瞬間、彼女を囲む石柱の合間に、眩いばかりに輝ながら、揺らめく焔(ほむら)のような朱(あか)い光が灯ったのだった。
「!?」
 リーヤは、そのあまりの眩しさに思わず片腕で秀麗な顔をかばった。
 次の瞬間、紺碧色の巻髪と緋色のマントが焔のような朱い輝きに翻り、しなやかな彼女の肢体が、まるで溶けるかのようにその中へと急速に吸い込まれていったのである。
 完全に彼女の姿がその場から消えた時、広い空間に乱舞した眩い閃光の切っ先が、ゆるやかに炎の獅子の紋章へと返って来る。
 そして、全ての光が消失すると、そこには再び、大いなる静寂とゆらゆらと揺れる巨大な松明の炎の影だけが残されたのだった。
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