神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
    *
 周囲を取り囲む眩いばかりの朱の閃光が消え失せた時、リタ・メタリカの美しき王女リーヤティアは、ふと、その顔をかばっていた腕をゆっくりと退けた。
 そして、晴れ渡る空の色を映したような澄んだ紺碧色の両眼を真っ直ぐ前に向けると、その視界に飛び込んで来たのは、砂に埋もれ朽ち果てていたはずの、先ほど、地上で見たあのアーシェの神殿の荘厳で豪華な石の柱の数々であったのだ。
 リーヤは、僅かに驚愕すると、利き手に細身の剣を構えたまま、荘厳なたたずまいを持つ神殿を見回したのである。
「此処は・・・・?」
 その時、足元の床に描かれた、あの炎の獅子の紋章が再び焔(ほむら)のように揺らめく朱い光を解き放った。
「!?」
 ほとばしる光が、ぐるりと彼女の周囲を取り囲んだ時、彼女の眼前の虚空に、まるで蜃気楼のようにゆらゆらと揺らめきながら、見知らぬ青年がゆっくりとその姿を現してきたのである。
 焔のような朱き輝きを纏ったその青年の持つ、澄み渡る鮮やかな緑玉の両眼。
 朱の閃光の中に棚引いているのは、深き藍の色をした長い髪。
 その顔立ちは、ひどく繊細で優美な面持ちを持っているが、どこか、あの魔法剣士ジェスターにも似ているようであった・・・
『よく来たな・・・【破滅の鍵】たる者よ、我名は、オルトラン・ラシェド・アーシェ・・・・大魔法使い(ラージ・ウァスラム)たる者』
 彼の唇が紡ぎ出すその言葉は、古いリタ・メタリカ語であった。
 しかし、その古き自国の言葉を理解できるリーヤは、彼の名乗ったその名前に、緋色のマントを羽織る肩を驚いたように微かに揺らしたのである。
 その名は、明らかに、400年前、魔王と呼ばれる青年をロータスの大魔法使いと共に封じたと伝えられる、アーシェ一族の勇士にして魔王の弟であった者の名。
 秀麗な顔を驚愕に歪めて、リーヤは、目の前に現れた古の魔法使いに思わず問い返したのだった。
「オルトラン・・・!?貴方は、あの魔王と呼ばれるゼラキエルの弟であった、あのオルトラン・・・・なのですか?
貴方は、アーシェ一族の大魔法使いだったのですか?」
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