神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
『いかにも・・・【破滅の鍵】たる者よ・・・・
アーシェは呪われた一族、魔王の弟である私が大魔法使いであったなどと、このリタ・メタリカの歴史書に刻む訳にもいくまい・・・【鍵】たる者よ、そなたが此処に赴いたということは、我が兄が闇から蘇ったという証であろう・・・・そなたの【糧(かて)】は、此処に在る』
 アーシェ一族の大魔法使いにして魔王と呼ばれた者の実弟であった古の青年オルトランは、無表情に近い冷静な顔つきで静かな口調を用いそう言うと、朱の衣を纏った片腕をゆっくりとリーヤの眼前に差し伸ばしたのである。
 不意に、その掌(てのひら)に朱の閃光と共に浮かび上がる、深紅の炎。
 リーヤの澄んだ紺碧色の視界の中で、彼の手にあるその炎は緩やかに何かの形を象っていき、虚空にふわりと伸び上がった時、そこに現れたのは、赤く輝く三日月型の刃を持つ一本の短剣であったのだった。
「それは・・・・?」
『やがて二つの種が邂逅(かいこう)し時が満ちた時、この「無の三日月(マハ・ディーティア)」が呪われた心臓を突き通すだろう・・・・
それは、【鍵】たるそなたにしか出来ぬ使命・・・・
その時が来たならば、決して躊躇うな・・・・・例えそれが、そなたの愛する者の姿をしていても・・・・』
「二つの種が・・・邂逅(かいこう)する時・・・?愛する者の姿を・・・していても?・・・それは、どういう意味なのです?オルトラン?」
 怪訝そうに綺麗な眉を寄せてそう聞いたリーヤに、古のアーシェの大魔法使いオルトランは、何故か、悲しそうに微笑して見せたのだった。
『受け取るがいい・・・』
 彼は、掌にある赤い刃の短剣を、ゆっくりと彼女の眼前に差し出した。
 僅かばかり戸惑いながら、しなやかな指先で『無の三日月(マハ・ディーティア)』と言う名の短剣を、リーヤが掴もうとした、その瞬間だった。
 不意に、『無の三日月(マハ・ディーティア)』が、朱の閃光を伴う轟音を上げて、燃え盛る紅蓮の炎に包まれたのである。
「あ・・・っ!?」
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