お前がいる場所が、好き。Ⅰ
そういえば、寺本はわたしが見たいものを優先してばかりで自分が見たいものを何も言っていなかった。
「ねえ、寺本は全然見たいの言わないけど、なんかないの?」
「嗚呼、俺? 俺、何度もここ来てるから特別興味あるものってないんだよな」
そうだった。とは言っても、水族館に誘ってきたのは彼だ。何か好きなものが水族館にあるはず。
「じゃあ、好きなものとかは?」
「好きなもの? んー、サメだな!」
「あ! じゃあサメ見に行こうよ!」
「へーえ、大丈夫か?」
いきなりからかうように、寺本は言った。
「何が?」
「サメだぞー? コビトペンギンより鋭い目してんだぞ? 小さくないから可愛いなんて言えないぞー?」
都市伝説の話をするように、怖い声で語尾を伸ばして言う寺本。
やっぱり、わたしをからかっていたのか。
別にサメには何もされないじゃない。サメを見て、怯えるような子供じゃないことを知っているくせに。
「うるさいなー、別に噛まれないから平気だもん!」
わたしは、強がるように言った。別に本気で強がっている訳じゃない。ただ単に、いきなり子供扱いされて腹が立っただけだ。