お前がいる場所が、好き。Ⅰ
雷はなり続けている。
わたしは、小走りで家の方へと走っていると、ベンチに黒髪の女の子が座っているのが見えた。
わたしがゆっくりと近づくと、ベンチに座っていたのは桜花ちゃんだということが分かった。
桜花ちゃんがベンチに座ったまま、ぴくりとも動かない。びしょ濡れになっているにも関わらず、家に帰ろうとしない。
「桜花、ちゃん……?」
わたしが呼びかけても、桜花ちゃんは動こうとしない。
雷なのに、こんなところに座っていたら、風邪をひくから帰らせないといけないのに。
「桜花ちゃん?」
「桜花って誰ですか?」
彼女の肩に触れようとしたが、感情のこもっていない、淡々とした話し方に、わたしは思わずビクッと肩を震わせた。
「え?」
「わたしは桜花じゃありません」
そう言ってるけれど、彼女の声は間違いなく桜花ちゃんだ。
彼女の髪だって、桜花ちゃんと同じ黒くて胸まであるくらい。
「桜花ちゃん、嘘つかないで」
「嘘じゃありません! 本当にわたしは、桜花じゃないんです!」
うんざりしたような感じで、彼女は言い返してくる。
「どう見ても、桜花ちゃんだよ!」
わたしも負けじと言い返すと、彼女は怒りを抑えるように息を吸った。
「あの……。もし、その桜花だったら、何の用なんですか?」