お前がいる場所が、好き。Ⅰ
「……此間のことで今更怒りに来たの? 湖に落として、あんた性格悪いねって言いに来たの?」
わたしは桜花ちゃんに湖に落とされてから、結構経っているけれど、あれからはじめて彼女と話した。
「違うよっ!」
自分でもびっくりするくらいの声が出た。
「じゃあ何!?」
彼女の声は、怒りと涙で震えていた。
「だったら、何の用? そうだよ、わたしは桜花。桜花だけど、何? 沙織ちゃん」
「寺本から聞いたよ。後、実を言うとわたし、見ちゃったんだ……」
わたしは、口ごもりながら言った。
「わたしが陸男くんに告白して振られたこと、やっぱり知ってるんだ。同情なんてしなくていいから、帰って」
てっきり、「なんで見たの?」と言われると思っていた。
「聞きたいことがあるだけ。ねえ、どうしてそんなに寺本を好きなの?」
わたしが質問すると、桜花ちゃんはゆっくりと顔を上げた。彼女の小さくて綺麗な顔には、何本もの涙が伝っていた。黒目がちな目も、涙のせいで悲しい光を放っている。
「……陸男くんと出会ったのは、まだ小学生だった頃なの」
彼女は、鼻をすすりながら話を聞かせてくれた。