お前がいる場所が、好き。Ⅰ
跡には、他の友達にはあまり心配はされなかった。彼氏に殴られたなんて怖くて言えなかったから少しだけ安心した。
けど、“誰にも”という訳にはいかなかった。
デートから帰ってきた、ある日だった。
『ただいま……』
わたしが玄関を見ると、その時間にしては珍しくお母さんの靴が置いてあった。
お母さん、仕事から帰ってきていたんだ。
そう思いながら、わたしは何気なくリビングへ足を進めた。
ソファには、お母さんがのんびりとした顔で座っていた。
ただ、そんなお母さんののんびりとしが表情は、わたしの顔を見た途端に変わった。
『桜花! あなた、その顔どうしたの!?』
とんでもないものを見たかのように、お母さんは叫んだ。
『え? なにかついてる?』
『ついてる、じゃなくて。この跡は、どうしたのよ?』
彼の平手打ちだ、きっと。それ以外に、何も考えられない。
『……あー、えっとね』
『お母さんになんでも言って!? 正直に言えば、怒らないから言いなさい』
『お母さん、わたし、もう嫌だよ……』
我慢していた涙が、ぶわっと溢れた。
こんなに涙を流したんだから、きっと誤魔化しても無駄だろうな。
『わたしが今、付き合ってる人がひどいの。その人にぶたれて……』
わたしは嗚咽をこらえて、ぽつりぽつりとお母さんに全てを話した。