お前がいる場所が、好き。Ⅰ

川野くんは、寺本の方に長い脚をゆっくりと進ませた。



「寺本、それが本当なんだよ。桜花、俺のこと今では嫌いじゃないみたいでさ……」



「_____違う」



眉ひとつ動かすことなく、寺本は遮った。



「栗原が、お前のこと好きなはずがない」



淡々とした口調で、川野くんにはっきりと話す寺本。



「なんだ、それ」



寺本とは正反対に、川野くんの眉毛はピクピクと動いている。


そんな2人を見て、わたしも怖くなってしまい、身体が震えだした。桜花ちゃんを見ると、彼女も相当怯えているのか、目を強くつぶっている。


そりゃあそうだろう。なんせ、好きな人と元カレが口論をしているんだから。
こんな光景を、桜花ちゃんは見たくないはずだ。



「俺、知ってる。栗原がお前に暴力を振るわれてたことくらい」



「もう、水に流してくれるらしくて……」



「_____だから、栗原がお前のこと好きになる訳がない」



完全な無表情で、寺本は話している。
この表情で改めて、思った。


寺本は、桜花ちゃんのことを友達としては本当に大切に思っていることが。


友達としては、“好き”ということが。




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