お前がいる場所が、好き。Ⅰ
「桜花! お前、何べらべらと喋ってんだよ! 誰がそんなこと言っていいって言った?」
川野くんは、またヒステリックに怒鳴った。
ちらりと見てみると、桜花ちゃんは俯いていて顔が長い髪に隠れていた。その上、小刻みに震えている。
「川野、いい加減にしろよっ! だいたい、お前が栗原に暴力を振るわなかったら、こんなことにならなかったんじゃないのか?」
さっきまで冷静だった寺本は、眉をつり上げて川野くんに負けないくらい激しく怒鳴った。
「お前に暴力を振るわれていることを打ち明けながら号泣する栗原の姿は、今でも目に焼き付けてるよ」
「桜花……。お前、自分の口から言ってみろよ……。一体、そういうのを寺本にいつ話したんだ」
急に静かな声になって、川野くんは桜花ちゃんに問いかけた。けれど、やっぱり彼女は顔を黒く長い髪で隠したままだ。
「あんたに……別れようって言った時」
身体だけではなく、声も震えている桜花ちゃんを見て、わたしは今すぐ彼女の手を掴んで逃げたい気持ちになった。
できれば、本当にそうして彼女を楽にさせたいけれど、川野くんはまた姿を表すだろう。
「お前さ、俺に暴力を振るわれた時、自分にも原因があると思わなかったの?」
確かに、デートの時間に遅刻するというのは、良いこととは言えない。
けれど、それで暴力を振るうということだっておかしい。