お前がいる場所が、好き。Ⅰ
しばらく歩いていると、湖が見えてきた。本当に久しぶりだな、とわたしは思いながら小走りで向かう。
「さおりちゃんだー!」
母性本能をくすぐるような、可愛らしい子供の声が聞こえた。聞き間違えるはずがない。寺本の弟さんや妹さんだ。
来ていたのか。寺本がいないと、いいんだけど。
「久しぶり! お兄ちゃんはいないの?」
わたしは、不安に思いながら何とか笑顔を崩すことなく2人に聞けた。寺本がいないなら、少し安心するけれど。
「あそこー!」
「にいちゃーん、さおりちゃんがきたよー!」
目を向けると、確かに向こうには2つのバッグが置いてあり、隣には高校生男子が座っている。
「増山……」
彼がわたしの顔を見て、かなりびっくりした表情をしている。
ここにいても、彼の居心地が悪いだけだ。わたしはそう確信し、背を向けて小走りで立ち去ろうとした。
「あれ、さおりちゃん! どこにいくの!?」
「あそぼうよう! いっちゃやだー!」
右手は妹さん、左手は弟さんにわたしは掴まれてしまった。これじゃあ逃げられない。
諦めたわたしは、唇を噛み締めてそのまま立つことしかできなかった。