お前がいる場所が、好き。Ⅰ
他にも彼を元気付けるようなことを言いたいけれど、何を言えばいいか分からない。
寺本も何を言えばいいか分からないようで、沈黙が流れる。
「にいちゃん? さおりちゃん? どうしたの?」
大きな目を丸くして、寺本の弟さんや妹さんはじっと見ている。
しまったな。こんな湿っぽいところを幼稚園児くらいの小さい子供に見られて、心配かけてしまった。
「ああ、大丈夫! 大丈夫だよ!」
わたしは、慌てて両手を振りながら言った。
「うん。兄ちゃん達は本当に大丈夫だから、お前達は遊んでこい」
寺本も、慌てた調子で言っている。
「ていうかお前、ここに来れるようになったんだな」
雰囲気を変えようとしている感じで、彼は言った。そういえば、彼にも「お母さんに湖に行くことを禁止されている」と言ったので、確かにわたしは来てはいけないはずだ。
「うん、お母さんに良いって言ってもらえたから。久しぶりに寺本の弟さんや妹さんに会えて嬉しかった」
「俺も。おま……て……いから」
はにかむような笑顔で言った彼だけど、何を言っているのか聞き取れなかった。
「ん? 何て?」
水族館へ誘ってきた時と同じように、彼の声が低くて小さすぎて分からない。
「いや、何でもねぇ」
やっぱり彼は教えてくれない。さすがにしつこく聞いたら悪いので、わたしは「そっか」としか言えなかった。