お前がいる場所が、好き。Ⅰ

たこ焼きを食べたり、ヨーヨー釣りをしたりと夏祭りを満喫したわたし達は、湖の場所へと向かった。


やはり夏祭りがあるのか、湖には誰もいない。



「悪いな、浴衣で動きにくいのにわざわざここまで歩かせて……」



彼は、また謝っている。わたしは、嬉しいのにな。



「大丈夫だって、わたし、この湖好きだし」



「俺も。この場所が好きなんだ。お前がいる、この場所が好き」



今、寺本が言った言葉。
どこかで聞いたことがある言葉だ。
こんな風に顔が熱くなって……。


わたしは急にハッとした。
そういえば、いつか寺本は同じことを言っていた。



『俺さ、この場所が好きなんだ』



『……わたしも』



『お前がいる、この場所が好き』



ああいう言葉を交わし合っていたんだった。全く、どうして忘れていたんだろう。



「あの時の理由が分かったんだ、俺」



確かにあの時は、



『俺、変だよな。理由も分かんねぇんだ。でも、分かったら絶対に言う。約束する』



と彼は言っていた。



「水族館の時も、ここにいる時も……」



寺本は間を開けてから、



「お前には、いてほしいから」



と言った。



「俺が好きなお前がいるから、この場所が好きなんだよ」



冷たくて青い湖とは正反対に、わたしの頰は熱くて赤い。




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