お前がいる場所が、好き。Ⅰ
わたしは、ドーナツの入った箱を慎重に持ちながら、湖の場所へ行った。
本当に、あの場所は飽きない。
いつもと同じように、寺本の後ろ姿が見えてきた。
「寺本ー!」
わたしが叫ぶと、いつもと変わりなく寺本が振り返った。
「増山!」
彼に増山、と言ってくれるとなんだか元気が出る。
「なんだ? また今日もなんか買ってきてくれたのか?」
寺本が、わたしの持っている箱に気づいて言った。
「うん。ミニドーナツ、買ってきたんだ。プレーンなんだけど、みんな好きかな?」
「本当に悪いなぁ。あいつら絶対喜ぶよ」
背伸びしながら、寺本は言った。
「本当に!?」
「餓鬼だもん。餓鬼ってやっぱ、そういうの好きだからさ」
確かに小さい子供は、お菓子が好きだし、彼の言う通りかもしれない。
「そういえば、そうだね。わたしは兄弟がいないから、全然小さい子のことなんか見てないや」
寺本には、あんな風に小さな兄弟がいる。しかも、こうして遊びに連れて行ってるから、ちゃんと見ている。
本当にえらいなぁ、と思う。