お前がいる場所が、好き。Ⅰ
「ああん?」
遅かったか。寺本は、きりっとした目でわたしを睨んだ。
「お前、可愛いって言おうとしたろ!」
「そ、そんなことないけど!」
わたしは、ヘラヘラと笑いながら言った。
「嘘をつくな。絶対に言おうとしただろ、可愛いって! 俺が可愛いなんて言われて喜ぶ人間だと思ったか? 俺は女じゃねえんだよ!」
寺本は怒鳴りながら、わたしの額を指で弾いた。痛い。
「ひぃぃ! ごめんなさーい!」
わたしが額を抑えながら謝ると、あれほど怒っていた寺本は「ぶっ」と吹き出してから、
「今の、うちの弟や妹が親に怒られた時の謝り方とそっくり! 面白いから、もう1回やれよ」
と言った。
「は? 嫌だよ!」
わたしが拒否しても、寺本は面白がっている。
「いや、いいだろ、もう1回くらい」
「やーだ!」
わたしは、怒った顔で言ったけれど、我慢が出来なくて笑い出した。
からかわれたから、からかい返されたという感じだ。
寺本が大人気ないと思っていたけれど、わたしも大人気ないな。