お前がいる場所が、好き。Ⅰ
「えっと。今日、始めてなんですか?」
塾が終わって、わたしは思い切って彼に聞いてみることにした。
「そうだけど。お前も?」
「そ、そうです! わたし、増山 沙織(ますやま さおり)。君は……?」
「寺本 陸男(てらもと りくお)」
寺本 陸男くん、か。
「寺本……くん」
「くんは、いらない」
わたしが呼んでみると、彼は首を横に振りながら言った。
「え?」
「俺もお前のこと増山って呼ぶから、お前も俺のことは寺本でいい」
「そ、そう。分かった。じゃあ、これからよろしく。寺本」
寺本って、呼び捨てで呼んじゃった。
まあ、彼もいいって言ったんだし、いいか。
なんだか距離が、うんと近くなったように感じられた。
この何気ない出会いの後、彼とわたしがぐっと親しくなったのは、しばらくしてからのことだった。