お前がいる場所が、好き。Ⅰ
わたしが美咲との電話を終えると同時に、お母さんが帰ってくる音がした。
「お母さん、お帰り」
わたしが言うと、お母さんは微笑んで、
「あら、沙織。帰ってたの」
と聞いてきた。
「うん」
「あっ。一応言っておくけど、明日は奈緒と美咲と3人で勉強する日だから」
「はいはい」
奈緒と美咲と勉強する場所は、基本奈緒の部屋だ。
それは特に、相談した訳でもなく、勉強を教える奈緒が他の人の家に行くという負担をかけたくないという理由で、美咲が奈緒の部屋で勉強するという提案をして、わたしも彼女の意見に賛成して決まったのだ。
「お母さん、もう夜ご飯作るから、ちょっと待っててね」
「うん」
わたしが頷いた後、お母さんはゴミ箱の中にあるドーナツの箱に気がついた。
「あなた、いつのまにドーナツ買って食べたの?」
「え? ああ、塾の友達とね」
「家に誘ったんじゃないわよね?」
何かを警戒するように、お母さんは聞く。
「まさか! お母さんの許可なく友達を家に入れるなんてこと、しないよ。待ち合わせ場所でドーナツ食べたの」
わたしは、慌てて手を横に振りながら説明した。
「そう。よかったわ」
お母さんは、心配性だな。まるで信用されていないみたいだ。
今までで、お母さんの許可なく人を家に入れたことなんて、ないのに高校生にもなって、いきなりそんなことをする訳ないじゃない。