お前がいる場所が、好き。Ⅰ
約束通りに、寺本はやってきた。
が、寺本1人だけだ。いつもいる、弟さんや妹さん達の姿は見えない。
「弟さんや、妹さん達は?」
「1番上の妹が見てる」
1番上の妹、ということは寺本が以前言っていた、一匹オオカミのような妹さんのことなのだろうか。
「そうなんだ。珍しいね」
夜でもないのに、なんだか夜のように静かだ。寺本の声は、いつもよりずっと静かだ。わたしの声も、いつもよりずっと静か。
「それで、今日は何かあったの?」
静かな声で、わたしは聞いた。
「俺さ、この場所が好きなんだ」
静かな声で、寺本は言った。
「……わたしも」
静かな声で、わたしは相槌を打った。
「お前がいる、この場所が好き」
「え?」
寺本の声は相変わらず静かだった。
わたしの声も、まるで実は驚いていないように静か。
「お前がいる……この場所? わたしがいる、湖?」
わたしがいるのといないので、何か違いがあるの?
わたしがいないと駄目みたいな言い方をして、一体どうしたことだろう。
寺本は、ふっと笑った。
「俺、変だよな。理由も分かんねぇんだ。でも、分かったら絶対に言う。約束する」
わたし達の側に、真っ青な湖。わたし達は、反対だった。寺本は、青い湖とは反対に赤い頰。
わたしの頰も、無意識に赤くなっていくことを感じていた。