お前がいる場所が、好き。Ⅰ
「丸山」
塾が終わって、帰ろうとドアの前にわたしと奈緒で来た途端、風岡先生が奈緒を呼んだ。
「はい?」
「ちょっと来い」
風岡先生に手招きされて、奈緒は「ごめんね」と口元だけで言ってから、先生のところへ行った。
話をよく聞きたいところだけれど、2人ともこそこそと小さな声で話すので、全然聞こえない。
3分くらいして、奈緒が戻ってきた。
「風岡先生となんのことで話してたの?」
「えっと! 塾の話」
わたしに聞かれて、奈緒は言葉をつっかえさえながら答えた。
「……塾の、なんの?」
「あたし、今度自習として塾行くんだ! それで、風岡先生に教えてもらうんだけど、その話し合い的な?」
慌てた話し方で言うので、奈緒が嘘をついているような感じがするけれど、親友だし、あまり深掘りをするのは良くなさそうだ。
「あ……。嗚呼、成る程ね」
わたしは、納得したふりをして頷いた。