お前がいる場所が、好き。Ⅰ
「増山、久しぶり」
傘をさして塾に着くと、懐かしい声がしたような気がした。
声の主を探すと、わたしは、
「て……寺本ー!」
と彼が驚くほどの大声を出した。
彼、寺本は全然塾に来ていなかったから。
「ひひ……ひさ、久しぶり! なんで、最近全然塾に来なかったの?」
「いつも湖に連れて行ってる弟や妹が、いっぺんに高熱出しちまってさ……。親が共働きで、夜遅くまで帰ってこないから、塾を休んで、看病するしかなかったんだよ」
寺本は、頭をかきながら言った。
「お父さんとお母さん、休み取れなかったの?」
「他の人が休みを取ってて……。運悪いことに、休む暇もなかったらしくてさ。俺が学校行ってる間は、交代で面倒見ることが出来たっぽいけど」
「忙しすぎたから、それが寺本がするしかなかったんだ」
寺本の話を把握したわたしが、言うと、
「おぅ。塾、しばらく休んで、勉強は家でする。面倒見ることは、出来るから、安心して仕事して来いって言って。それで、1番上の妹と一緒に面倒見てた」
と、寺本は話を終わらせた。
「そう、だったんだ」
「じゃあ、入るか」
寺本の言葉に、わたしは、小さく頷いて傘をたたみ、寺本と塾の中へと入った。