お前がいる場所が、好き。Ⅰ
勉強が終わった。いつもは、奈緒と美咲と帰るけれど、寺本の話が聞きたいので、わたしは2人に今日は用事があると言って、彼と帰ることにした。
「陸男くん? 陸男くんだよね!」
陸男。
寺本の下の名前だ。
声の主らしき人が、わたし達に近づいてくる。
すごく綺麗で可愛い女の子だった。
小さな顔。
綺麗なストレートヘア。
派手すぎないような、控えめなフリルがあしらわれた、焦げ茶色のワンピースを着た、わたし達と同い年くらいの女の子だった。
美咲とは違ったイメージを受ける美少女だけど、どこか変だった。
まるで彼女は、わたしが見えていないみたい。ちらりとも見ない。
「あれ、違ったかな? 君、寺本 陸男くん、じゃない?」
寺本は、彼女のことを全然知らなそうな顔をしているところを見て、彼女からは冷や汗が流れそうだ。
それに、彼女の声はさっきの『陸男くんだよね』という声と全く同じだ。
「あ……。そうです、寺本ですけど」
それを聞いた彼女は、花がぱあっと咲くように笑った。
「やっぱりそうだったんだ! 覚えてる? わたし、栗原 桜花(くりはら おうか)だよ!」
「栗原、桜花……? ん? 栗原!? お前、あの栗原なのか?」
寺本は、目を大きく見開いて、彼女に聞き返した。
「そうだよ! 思い出してくれたんだね! よかったぁー!」
「お前は、ここで何やってんの」
「買い物帰りだよ」
確かに、栗原さんの手には、スーパーのレジ袋が握られている。