蒼い月の下で
「…………ここ、か……?」
呟いた目線の先には、学生の寮だとは思えないほど大きく、綺麗な一戸建て。洋風で、白く、一見すると小さな館の様にも見える。
学生寮に金かけすぎだろ…!もっと他のとこに金かければいいのに。やっぱ、金持ちの感覚って分かんないわ…。
数分そこで立ち尽くした後、カメラ付きのインターホンを押した。
「…………はい」
「あの、今日から入居する……」
「あー……はいはい。今開けるから入って」
数秒後、カチッと音がして鍵が開いた音がした。
え?これ、入ればいいの?普通は、誰かが来るんじゃないの?まぁ、私みたいな庶民の常識は通用しないか。どうせ。
ため息をつき、ドアを開け、中に入る。広い玄関の隅に、荷物を置き音がするドアを開けた。
「あの……」
「あーちょっと待ってね。これが終わったら聞いてあげるから。……あーっクッソっ!」
デカいテレビの前に、3人が座ってゲームをしている。男3人が。
確か、この寮の入居者は、3人。そして、テレビの前の人も3人。いやいやいや………………………。は?!なんで、男なの…?!おかしいだろ………!
しかもこの男たち……
「あっ!!おいっ真尋!!お前また………!」
「え?おれじゃないし。藍が弱いのが悪いんでしょ。人のせいにすんな。」
「うっせーな。2人共。ケンカすんなら、ゲーム、貸してやんねーぞ。」
「お、俺のせいじゃないし!真尋が、俺のキャラばっか狙うからっ!」
「で、なんだっけ?入居?………え」
「は?!男?!おいっ真尋っ!お前、女が来るって言ってたじゃんっ!」
「しかも、クソダセーし。髪ボサボサじゃん。どうしたらそうなんの?前髪邪魔じゃない?前見えてんのか?」
……なんか、めちゃくちゃけなされてるんですけど……?てか、男って…
「クッソ、男かよ。オレ、結構期待してたのによー。最悪。こんなダサ男が来るとか。」
「は……?あ、あの……!私は………「あーあ、女たら、多少ダサくてもヤれんのに」
「………………………………………は?」
私の言葉が、かき消され1番奥にいる男から、とんでもない発言が聞こえた。
な、何言ってんの、この人……。気持ち悪ぃ。
「うわー出たよ、蘭のサイテー発言。」
「蘭……女遊びもほどほどにしないといつか、後ろから刺されるよー。」
「別に、オレから誘ってるわけじゃねーし。向こうが腰振って寄ってくんだよ。オレが悪いわけじゃねぇ。」
「本当………一回痛い目見ればいいのにね。それこそ、後ろから刺されるとか。……おれが刺してやろーか。」
「おーい、真尋ー。目が笑ってないよー。まぁ、俺は蘭が痛い目にあおうが、別にいいけど、寮に連れ込むのは、やめてくれない?」
「別にいいじゃねーか。あー、2人共混ざりてーの?」
「誰が。絶対やだよ。」
「まぁ、次の入居者は、女にしろよ。そーだな…
SMプレイに耐えられる子がいいな。」
「えー、俺は美人かかわいい子がいい!」
「そんなんおれらが決めることじゃないだろー。……でも、SMに耐えられる子もいいね。」
な、なんなのこいつら……!この人達と生活とか絶対無理!てゆうか、私女なんですけど……!確かに、髪は短くてボサボサだけど!胸も、スポブラだから、多少潰れてるけど……!だからって男と、間違われるのは……………。ん?いや、よかったのか…?…唯一分かってるのは……
「で?ダサ男君、名前は?」
この人達に女だってバレたら、犯される……っ!
私立藤堂魔術総合学院は、お金持ちの子息や御令嬢が集まる天ノ國屈指の名門私立高校だ。幼稚舎からあるため、そのほとんどの生徒が持ち上がりで大学まで進む。頭の良さはもちろん、財力、家柄などでクラスが分かれており、1番上のクラスはA組、1番下がE組となっている。
そんな学校に庶民の私が入れたのは、知り合いだった理事長の推薦があったから。寮に入れてくれたのも、理事長の厚意だけど……。
男が同居人とは聞いてない!!
「おい、ダサ男。聞いてんのか?」
「え?あ、はい?すみません…」
「名前は?」
「あー……在原 誠です。来週から高校1年になります。…これからお願いします。」
男とはあんまり馴れ合いたくないけど、しょうがない。とりあえず、この人達にだけは、女ってことをバレないようにしないと。あと……
「ふーん、誠ね。高1ってことは、藍と一緒じゃない?あー、おれと、蘭は高2。先輩だから。」
「多分クラスは、オレらと違うから安心しろ。」
「そ。俺らは、A組。お前は庶民だからE組とかじゃない?」
「?学年が違くても同じクラスなんですか?」
「はぁ?お前そんなことも知らねーの?うちの学校じゃ、当たり前だと思うけど。」
「まぁまぁ。蘭も、藍も、もっと丁寧に教えなきゃ。……ところで、誠、性別は?2の方。」
「ちなみに、おれらはαだから。」
!!…やっぱり……
「べ、βです。」
「ちっ……βかよ……。Ωだったら………」
「あのーちなみに、わた……俺も……」
「ま、いいや。誠の部屋は、上の階上がって奥から2番目の右側の部屋だから。間違えないでねー。…間違えて入ってきたら、襲うから。」
「?!え、あの…俺、男です…けど…」
に、にこやかに、何言ってんだ?!この……ま…ひろ…先輩…
「別に、男でもヤろうと思えばヤれるし。それに、おれらαはΩが男でも大丈夫なようになってるから✨」
「き、気をつけます……。」
やばい。やばいところに入居しちゃった……。
えーと……この部屋か。…うおっ広っ!!本棚も、デカイし、テレビもあるし、このドアは……?
ウォーキングクローゼット?!こんなにたくさん服がないっつーの。……金持ちって……怖っ。
最小限しか持ってこなかった手持ちカバンから、服と、愛読書を取り出す。
……ん?まてよ…。ベッドが無くない?あー……自分で買え的な?無理だろ。まーいいや。床でも寝られるし。んー……ガラーンとしてて、広いな……
で、なんだっけ…?私の仕事は……
ポケットから、理事長の手紙を取り出し、広げた。
<掃除、クリーニングに出す洗濯物を指定の場所まで移動させる、その他諸々の雑用など>
食事は、専用のシェフが来るから作らなくていい、と。自分の分は、作れってことか。あの人達、どっかの御曹司かな?こんな、金持ちっぽいこと……
とりあえず、家政婦としてなんかやればいいってことかな。……頑張んなきゃ。もう、……'あそこ’に戻るのはごめんだから……
「…なぁ、お前ってゲームできる?」
夕食後、ゲームをしていた3人を横目に食器を洗っていた私に藍…さんが声をかけてきた。
「…ゲーム…聞いたことはありますけど、やったことはないです。」
「「「やったことないの?!」」」
「え。おかしいですか?」
「この時代に、ゲームをやったことない人が存在するとは…」
「えっマジで言ってんの?ヤバイよ、それ。」
「庶民ってみんなこんな感じなの?やったことない人だらけなわけ?」
「💢…みんなが、そうだとは限らないですけどね…楽しいんですか?それ?」
「楽しくなかったら、オレがやるわけないじゃん。やる?」
「やれよ。ボコボコにしたいから。」
「藍はいつもおれに負けてばっかだから、勝ってみたいんだよねー」
「は?違うし!」
「…💢いいです。やりません。」
「………ふーん……あぁ、オレらに絶対勝てねーもんなぁ。絶対勝てないからやんないんでしょ?」
「は?違いますけど?誰が勝てないなんて言いました?」
「でもさーやんないってことはー勝てないってことでしょ?違う?」
「違います!気分が乗らないだけですが。」
「じゃあ、やれば俺らに勝てるってこと?」
「勝ちますよ!」
「負けたら?」
「何でもします!」
「…いったな?」
「………え?……あ。っ今の無しで!今のは、言葉の綾で……」
「はい、男に二言はない。ってことやるよー」
「っむりむりむりむりっ!だいたい、初心者が勝てるわけ…」
「言い訳無用。さっさとリモコン持て。」
そして始まったシンプルな戦闘ゲーム。
これなら何とか……
結果
見事に惨敗。10ゲーム中10ゲーム全てぼろ負け。
くっそ。あとちょっとで、藍さんには勝てそうだったのに…
「…お前、今、俺になら勝てそうだったとかかんがえてんでしょ。」
「は?なんで分かって…」
「ばればれなんだよ!顔に出てるし。しかも、後半ら辺は俺ばっか狙ってたもんねー」
「ははっ。よく分かってんじゃん、藍が一番この中で弱いってこと。」
そう言って私の背中を小突いた蘭…さんの手にビクついてしまい、気づかれない程度に、さっと体を引いた。
「………?」
「ま、てゆーことで、誠は負けたんだから何でも言うこと聞くんだよね?」
「は?え、嫌です。」
「さっき自分で言ってたでしょ?」
「い、いや…それとこれとは話が違うので……」
「なーんも違くないでしょ?」
身を引いた私を逃すまいと、真尋さんの手が私の肩に触れそうになって思わずその手を払った。
「っ……………あ……すみません……」
「…さっきからさ、オレの手にビクついたりしてるけど何なの?」
「嫌なら嫌って言ってくれない?」
…嫌って言ってるじゃん!
「いや……あの、ちょっと男が苦手で……話すのとかは、人によって大丈夫なんですけど……触られるのは………」
「…男なのに?」
「…はい………トラウマがあって…」
「……ふーん……」
「……はぁーそーゆーのはさぁ、もっと早くに言ってくんない?」
「あー……はい。すみません」
「あと、さん付けと、敬語、なくていいから。」
「俺も。」
「じゃー、おれも。なんか、気持ち悪いし。」
「……はい……ありがとうございます…」
…いい…人達っぽいな…。
信用するわけにはいかないけど。