わん もあ ちゃんす
俺はバカだ。
俺の家に行こうとして、迷うなんて。
しかもこの体、体力がない。疲れて本当に動けない。少し休憩していこう。そう思った矢先、同い年くらいの男子が現れた。
「うわ、すげーかわいい!」
第一声がそんな間抜けな言葉でいいのか、と思ってしまったが何はともあれ助かった。
「ねえ、ちょっと迷っちゃったんだけど…」
そう言った時、気付いた。
ーこいつ、俺だ。
小学一年生の頃の、俺。
俺は今も昔も馬鹿だから思った事がすぐ口に出る。一旦脳を通せ、と何度も言われた。あの頃の、いや今の俺でさえこの『えいちゃん』の顔を見たらこんな間抜けな感想を持ち、そして言ってしまうだろう。
「え?迷ったの?案内してあげる!」
そう言う俺。いや、翔哉。
分かっていたはずなのに。
理解していたつもりだったのに。
どうして…俺は混乱している?
予定より早く自分とあったから?
違う、分かっている。
急に、リアリティがでてきたからだ。今までのことは夢だと、そう思いたかったから。
「どこに行くつもりだったの?」
「あ…ー」
声が上手く出てこない。きつい、辛い。これは現実で、おれは『えいちゃん』でー…。
「あ、の、多岐川さんの、おう、ち」
お前の家とか言ったら頭の悪い俺は勘違いするだろうから一応こいつのことは知らないことにしておこう。
「たきがわ?俺ん家?」
「そ、そぅ…」
「うち来るの?わかった、ここからそんなに遠くないから!」
そう言った翔也は清々しく、爽やかな笑顔を浮かべていた。
羨ましかった。そんな顔ができるなんて。
「あ、名前は?」
俺の癖にナンパだと?!
…まあ小学一年生だからそこまで考えてないだろうけどな。
…でも、まだ俺の事を信じることなんて出来ないからあだ名だけ教えておこう。
「え、えいちゃん」
「えいちゃんって言うの?いいなぁ、可愛い」
羨ましがってどうする、翔也!
歩きながらも翔也は色々なことを聞いてくる。
どこの小学校だとか、年齢だとか、クラスだとか、正直よくもまあそこまで喋って喉がかわかねえなと思った。
「なんで俺の家に用事があるの?」
一番核心をつく質問をしてきやがった。
俺の癖に!
「…」
ここは黙っていよう。というか言い訳が思いつかねぇ!
「あ、着いたよ」
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