翔ける想いと×ふたり
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長い長い冬が終わり、春を知らせる暖かい風に、少しばかり心を躍らせていた。
「姫奈〜、今日は天気がいいからお外出てみよっか!」
私の腕に抱えられた産まれて間もない小さな命。
雪がしんしんと降る寒空の中産まれて来た姫奈は、この時まだ生後5ヶ月。
「アァー!」と元気に声を発して、歩く事もまだ出来ないその身体は、私に抱えられ春の日差しを目の当たりにする。
実家の庭に咲くチューリップが静かに揺れ、蝶が2匹仲良く飛んでいた。
それを、姫奈の小さな黒目が追いかける。
初めて見る生き物、初めて迎えた季節、春を知らない赤子だったこの子にとっては全てが初めてで。
「もうすっかり春だね」
その声を誰に届けるつもりもなかったけれど、どこか虚しさで胸が痛む。
本当なら、隣には姫奈の父親がいて、私がいて。
この子が感じる初めての春の艶やかさや夏の眩しさを一緒に喜び合えるのは、私一人しかいなくて。
姫奈の父親は、私が18歳で妊娠中の最中、警察に捕まった。
その事から私の親が結婚を反対して、ただ子供だけは産みたいという意思を尊重して貰い、姫奈が誕生した。
妊娠生活を送るうち、別れた事にすっかり未練も後悔も無くなった。
残ったのは、やり場の無い虚しさだけ。
姫奈を産めた事、こうして我が子と生活出来ている事、親には感謝しかないし、もう悲しませる事はしたくない。
子供がいるだけで幸せだし、高望みするつもりも無かった。
だけど虚しさを処理しきれない心は、どんどん闇を深める一方。
私、このまま一生この子と二人なのかな・・・
そんな思いがいつしか頭を過り始める。