37.5℃ ~君に恋をしている~
夕暮れに染まった道を泉くんと歩く。
でも何を話していいか分からず、ずっと無言だ。
とにかく何か話さないとと思って、お母さんは元気?と聞いた。微かに覚えている優しい笑顔の泉くんのお母さんの顔。
もう一度会って久しぶりに話がしてみたい。もう子供の頃の面影はないかもしれないけど、私のこと覚えていてくれるだろうか。

「まひるちゃん、うちね」

泉くんの顔が曇った。

「離婚したから、もう母親とは会ってないんだ」

「え」

聞いてはいけないことを聞いてしまった。
どうしよう、と私が黙っていると泉くんは話し出した。

「今は新しい母親といる」

「新しいお母さんと……?」

「うん。父さんが一年前に再婚したんだよ。だから今はその人が俺の母親になる」

「そうなんだ。何かごめんね変なこと聞いて」

「大丈夫」

と泉くんは言ったけど、この前二人で行ったカフェで浮かない表情を見てしまった私には全然大丈夫な気がしなかった。
あのぐるぐる回る黒い渦に吸い込まれそうになる泉くん。
終わりのない暗闇と似てる。
ねぇ、泉くん。新しい母親と暮らす家に光は射すの?部屋で一人になった時、何を思うの?


考えながら歩いているといつの間にか私の家の近くまで来ていた。
また何も聞きたいことを聞けなかった。
もう今日はこれでさようならかと思ったら、泉くんは足を止めてつぶやいた。

「……さっきの、じゃないかも」

「じゃない?」

大丈夫じゃないかも。と。


私はこの人をこのまま帰してはいけない。
そう思った。
だから。

「良かったらうち、寄っていかないかな?」

思い切って言った。
もう別に断られたらどうしようとか、そんな迷いは消えていた。
それよりも一人で抱え込んでるその何かを私に少しでも受け渡して欲しい。
じゃないと、二人で歩いていても一人と変わらないから。

「いいの?」

泉くんが私の方を心配そうに見た。

「いいよ。うちは全然!」

「じゃあ、お邪魔します」

そう言って笑った泉くんは教室でよく見る明るいいつもの泉くんだった。

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